A.
リンカーン・フォーラム方式では、公開討論会で立候補予定者から参加費ないし協賛金を徴収することを禁止しています。
主催者と立候補予定者は、「公開討論会を開催することに共通のメリットを共有する、共通の土俵に立っている平等の立場同士」。このように考えると、立候補予定者から協賛金を徴収してもいいように考えられます。しかし、次の2つの理由により協賛金の徴収を禁止しています。
1.公職選挙法に抵触する可能性がある
市民主催の公開討論会に候補予定者が協賛金を提供すると、公職選挙法の解釈によっては第199条の2(公職の候補者等の寄附の禁止)に抵触する可能性があります。
公職選挙法第199条の2(公職の候補者等の寄附の禁止)
公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。以下この条において「公職の候補者等」という。)は、当該選挙区(選挙区がないときは選挙の行われる区域。以下この条において同じ。)内にある者に対し、いかなる名義をもつてするを問わず、寄附をしてはならない。
ただし、政党その他の政治団体若しくはその支部又は当該公職の候補者等の親族に対してする場合及び当該公職の候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会その他の政治教育のための集会
(参加者に対して饗応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)が行われるようなもの、当該選挙区外において行われるもの及び第199条の5第4項各号の区分による当該選挙ごとに当該各号に定める期間内に行われるものを除く。以下この条において同じ。)
に関し必要やむを得ない実費の補償(食事についての実費の補償を除く。以下この条において同じ。) としてする場合は、この限りでない。
|
なお、この条文の解釈によっては
「公開討論会は『候補者等が専ら政治上の主義又は施策を普及するために行う講習会』とも考えられるから、参加費徴収は構わないのでは?」とも受け取れます。
このように「寄附行為」の条文解釈はグレーゾーンです。前例がないと、選管の態度もはっきりしません。それに、違法性を判断するのは、裁判所であって選管ではないからです。立候補予定者も、公職選挙法でグレーゾーンであると、安心できません。以上の理由から、参加費の徴収は避けるべきでしょう。
2.候補予定者への配慮が必要
リンカーン・フォーラム方式が候補予定者からの参加者徴収を禁止する第2の理由は、候補予定者への配慮からです。
確かに候補予定者が均等に参加費を払って、自分の主張の場を得るという考え方はおかしくはなく、合理的であるともいえます。しかし、人というのは合理的判断だけでなく、感情でも動くものです。この、候補者陣営の感情面にも最大限の配慮をしているのが、リンカーン・フォーラム方式の公開討論会と、他の市民活動との違うところといえます。
リンカーン・フォーラム方式の公開討論会では、主催者と候補予定者は「開催することに共通のメリットを共有する、共通の土俵に立っている平等の立場同士」という考え方はとりません。私たちにとって、候補予定者は「お客様」であり、「おもてなしすべき相手」なのです。
なぜなら、候補予定者は私たちの代表となるべき方々です。私たちの代表候補に、選挙に落ちたらただの人になるという命がけの戦いの最中、忙しい時間を割いて出席していただくわけです。これは敬意をもっておもてなしするのが、人として当たり前でしょう。
しかし、これは決して候補者や代議士を「先生、先生」といって持ち上げ、へりくだることではありません。人間のコミュニケーションのごく、当たり前のことなのです。パネルディスカッションにおいて、パネラーから参加費を徴収することはありません。公開討論会もこれと同じで、「お客様」である立候補予定者から参加費を徴収するのは、不自然でしょう。
ちなみに、政党代表者クラスを招待する公開討論会では、帰りには菓子折りを持たせています。選挙区選挙での公開討論会でそこまでする必要はありませんが、そのような心構えをもっていただきたい、ということです。主催者がこのようなおもてなしの心を持っていると、候補者側も必ず心を開いてくれます。
●立候補予定者へのおもてなしの心について
候補者を安心させてあげるのも、おもてなしの心です。
仮に、選管や総務省選挙課から口頭で「公開討論会であれば候補者から参加費を徴収しても寄附行為にはあたらない」という回答を得たとしましょう。それでも、きっと納得しない陣営があるはずです。
なぜなら、安心できないからです。選挙というのは足の引っ張り合いですから、彼らの不安を徹底的に取り除いてあげなければなりません。
例えば、総務省担当者や選管担当者の署名入りで回答をもらい、新聞、雑誌、ホームページなどで公表するなどは、リンカーン・フォーラムが公職選挙法で解釈のグレーゾーンの問題が発生した場合に利用している常套手段です。
このような石橋を叩いて渡るリスクマネジメントの精神が、候補者を安心させることができるのです。 リンカーン・フォーラム方式の真髄は、実はルールや運営ノウハウという部分よりも、このようなおもてなしの心で、「候補者」「有権者」「主催者」すべてがWIN-WINの関係を構築するという哲学にあります。
|