4-10.リンカーン・フォーラム事務局への届け出
5.当日の運営
6.公開討論会が終了したら(マニフェスト・サイクルへの関与)
4.開催の準備

 

 

  4.開催の準備

 

4-4.マニフェストの配布

 2003年10月の公職選挙法改正で、選挙期間中のマニフェスト配布(法律用語では"頒布")が部分的に解禁されました。しかし、同法(第142条の2)では、マニフェストの配布が著しく制限されています。

<公職選挙法第142条の2(パンフレット又は書籍の頒布)の概要>

項目 規制内容 解説
対象選挙 衆議院議員総選挙、参議院議員の通常選挙のみ ・国政選挙でも、補欠選挙(統一補選も)は配布できない・地方選挙は配布できない
配布できる人、団体 衆議院議員名簿届出政党、または参議院議員名簿届出政党のみ ・無所属議員は配布できない・個人は配布できない・現職議員のいない政党は配布できない
配布できる期間 選挙運動期間のみ 告示日前に開催する公開討論会で配布することは出来ない
配布することが出来るもの 国政に関する重要政策を記したパンフレットのみ ローカル・マニフェストは配布できない
配布できる場所 名簿届出政党の、選挙事務所内、個人演説会会場、街頭演説の場所のみ 告示日前に開催する公開討論会の会場で配布することは出来ない

 

 つまり、公職選挙法第142条の2だけを見ると、公開討論会でマニフェストの配布が認められているのは、衆議院議員総選挙、参議院議員の通常選挙における合同個人演説会だけで、しかも政党だけということになります。地方自治体選挙の場合、マニフェストの印刷物は一切配布することはできないと読み取れます。
 では地方自治体選挙のマニフェスト型公開討論会では、ローカル・マニフェストを一切配布できないのでしょうか。

 実はこの条文をクリアし、合法的にローカル・マニフェストを配布できる方法があります。
結論から先に述べましょう。

◆公開討論会(告示前)でのローカル・マニフェスト配布方法
  複数の候補予定者のマニフェストを一緒に配布する
※1冊にまとめて綴じる必要は無いが、セットにして来場者に手渡せればベター
  選挙名の掲載は不可能だが、自治体名の掲載は可能
  マニフェストに候補予定者の氏名を掲載してよい
  マニフェストに候補予定者への投票依頼を掲載してはいけない
     
◆合同・個人演説会(告示後)でのローカル・マニフェスト配布方法
  複数の候補者のマニフェストを一緒に配布する
  書式は、候補者の確認団体(参考1)が「政治活動のために使用する政策パンフレット」として作成したものか、あるいは本マニュアル資料編のマニフェスト書式に準じたものを使用する
  選挙名の掲載は不可能だが、自治体名の掲載は可能
  マニフェストに候補者の氏名、および氏名を類推できるものを掲載してはいけない。ただし、候補者の確認団体(参考1)の名称は掲載してよい
  マニフェストに候補者への投票依頼を掲載してはいけない
  候補者の確認団体(参考1)が「政治活動のために使用する政策パンフレット」として作成したマニフェストを、公営施設で配布する場合(参考2)、必ず合同個人演説会の企画・運営団体が配布する。

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 この配布方法が合法である理由は、同じ条文の前半、すなわち第142条の1(文書図画の頒布) にあります。この条文は、「選挙運動のために使用する文書図画(ここでの文書図画とはローカル・マニフェストを意味します)」のみを規制しています。
 したがって、選挙運動性がなく、純粋に政治活動が目的のローカル・マニフェストであれば、告示前はもちろんのこと、告示後の選挙期間中でも、一部の例外を除き、配布(頒布)できるのです

 このことは総務省選挙課が「純粋に政治活動が目的のマニフェストを配布することを違法とは断定できない」と回答しています(2005.2.1原田事務官)。

 さらに神奈川県選挙管理委員会や千葉県選挙管理委員会は、それぞれの知事選(神奈川:2003年、千葉:2005年)で松沢成文候補や堂本暁子知事が作成したローカル・マニフェスト冊子の実物を確認し、選挙運動性が無いために配布可能であるとの判断を下しています。

 総務省選挙課の回答が神奈川県選管、千葉県選管の判断に比べて歯切れが悪いのは、第一に実物のマニフェストを見ていないので、個別事情は地元選管の判断に委ねるという立場だからです。そして第二に、そもそも総務省選挙課は一般論として公職選挙法への適法・違法の見解を示すことは出来ても、個別事情について判断できる立場には無く、それは警察や検察、そして最終的には裁判所の職掌だからです。

 

 さて、では、「選挙運動のための文書図画」「選挙運動性がある文書図画」の"選挙運動"の具体的な定義を検証してみます。
 世間一般の感覚では「選挙運動」と「政治活動」の境界線は曖昧ですが、公職選挙法ではその境界線が明確に定義されていて、「選挙運動」とは「特定の選挙において、特定の候補者を当選させるために、直接または間接に働きかける行為」です。(ちなみに「政治活動」とは「政治上の目的を持って行なわれる全ての行為から、選挙運動に該当する行為を一切除いた行為」と定義されています。)
 そして、「特定の選挙において、特定の候補者を当選させるために、直接または間接に働きかける行為」を満たす条件を列挙すると、
  @ 選挙を特定している
  A 候補者を特定している
  B 投票を依頼している
となり、この3条件を兼ね備えた、直接または間接的な行為が選挙運動です。

 したがって、選挙や候補者を特定せず、投票依頼を書いていないローカル・マニフェストであれば、選挙期間中でも配布できます
 また、告示前であれば、出馬を表明した人であってもまだ立候補はしていない、立候補"予定"者に過ぎませんから、例えば政治団体の代表として、あるいはマニフェストの執筆者として氏名を掲載することも可能です。

 ローカル・マニフェストの本来の主旨から考えれば、この3条件を満たした、まさに選挙運動のための文書こそ配布を認められてしかるべきなのですが、現行の公職選挙法の下でローカル・マニフェストを配布するためには、選挙運動性を排除しなければなりません。以上を理解のうえ、合法的にマニフェストを配布しましょう。

 なお、本項の要約を、巻末の資料編に1枚の文書(公職選挙における公開討論会(告示前)および合同個人演説会(選挙期間中)の題材として、ローカル・マニフェストを頒布することについて)にまとめてあります。
公開討論会や合同個人演説会でマニフェストを配布する場合は、この文書を地元の選挙管理委員会に持参して、了解を得ましょう。

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<参考情報>

  用語、内容 解説
確認団体  参院選、都道府県の知事および議員の選挙並びに区長および市長の選挙において一定の要件を満たす団体が、 当該選挙が公示または告示されてから届出をすることによって、選挙期間中も政治活動ができるようになります。この団体を確認団体と呼びます。候補者の後援会(選挙対策本部)とともに、実質的に候補者の選挙運動を仕切る団体であり、例えば「活力ある○○市を創る会」などの名称を使われることが多いです。
選挙期間中の公営施設でのマニフェスト配布  公職選挙法第201条の13の第3号により、候補者の確認団体が「政治活動のために使用する政策パンフレット」としてローカル・マニフェストを選挙期間中公営施設で配布することができる演説会は、確認団体が開催する「政談演説会」に限られており、候補者の「個人演説会」では配布できません。
 しかし、合同・個人演説会会場で、企画・運営団体が配布するのであれば合法です。
 したがって、合同・個人演説会は、選挙期間中に公営施設でローカル・マニフェストを配布できる、非常に数少ない貴重な機会なのです。このことは、専門家でもほとんど知らない事実であるとともに、合同・個人演説会のメリットを候補者にアピールできる重要な情報です。※本情報は千葉県選挙管理委員会にご指導いただきました。


 

Q3.ローカル・マニフェストを「販売」することは、公選法で規制されている文書図画の「頒布」に当たらないと思うので合法ですか?

A3.「販売」することも有償の「頒布」にあたります。
   選挙運動性が無いローカル・マニフェストを販売することは問題ありませんが、選挙運動性があるローカル・マニフェストを販売すると違法とみなされる恐れがあります。

※2003年4月の神奈川県知事選で松沢候補がマニフェストを1部100円で選挙事務所や街頭で販売したことが良く知られているので、「マニフェストの無料配布は出来ないが、有償での販売ならできる」と解釈している専門家が多いのですが、上記のとおり誤解です。
マニフェスト配布の合法・違法の判断基準は、無料配布か有償販売かではなく、あくまでも選挙運動性の有無にあることを、総務省選挙課が言明しています。

 

 

 

Q4.ローカル・マニフェストを会場入口で貸与し、出口で回収することは公選法で規制されている文書図画の「頒布」に当たらないと思うので合法ですか?

A4.会場入口で貸与することも、短時間の「頒布」とみなされる恐れがあります。したがって、選挙運動性が無いローカル・マニフェストであれば貸与は問題ありませんが、選挙運動性があるローカル・マニフェストを貸与すると違法とみなされる恐れがあります。

 

Q5.告示前に作成したマニフェストに、立候補予定者の氏名や写真を掲載しています。これを選挙期間中に配布できますか?

A5.このままでは選挙期間中に配布できませんが、以下の修正を加えることで、配布可能になります。修正後は、念のため地元選管に確認をとるといいでしょう。
・ 立候補者の氏名は、確認団体の名称(例:活力ある○○市を創る会)などに差し替える
・ 「私、鈴木一郎は・・」と記載してある部分は、「私たち、活力ある○○市を創る会は・・」と主語を「私たち」に置き換える
・ 立候補者の写真、似顔絵、その他氏名を類推できるものは全て削除する

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4-5.マニフェストの受領と確認

 候補者からマニフェストを受領したら、念のため、「4-4.マニフェストの配布」に基づき、選挙運動性が無い文書であることを確認してください。選挙運動性があるかどうかの判断に迷う場合は、地元の選管に実物(または印刷原稿)を見せて相談しましょう。

 


 

 

4-6.行政基礎データ作成と提示

 多くの有権者は行政の現状を詳しくは知らないので、マニフェストで数値目標を出されてもピンとこないのが普通です。
 たとえば2003年4月の神奈川県知事選に松沢氏が提示したマニフェストで、「行政職員(常勤職員)の定数を4年間で約1,500人削減し、警察職員については安全づくりのため1,500人増員します。」という目標がありました。数値目標と達成期限が明確であり、詳細説明では実行の手順や、本政策の遂行によって人件費を約2,400億円抑制することも明示されており、大変明快です。

 しかし、あなたが神奈川県民であったとしても、神奈川県という規模や歴史、現状の中で、果たして「行政職員の1,500人削減」や「警察職員の1,500人増員」という数値目標が、挑戦的な目標なのか、このまま推移すれば自然に達成できる目標なのか、あるいは控えめな目標なのかわかるでしょうか?
 この事例からも分かるとおり、マニフェストの数値目標が明確であればあるほど、行政データのこれまでの推移や将来予測、あるいは類似規模の自治体との比較情報などの客観的な情報を知らないと、その数値が妥当なのか判断しにくいものです。

 もちろん、候補者には公開討論会の場でこれらの説明をしていただくのですが、限られた時間の中で説明するには限界があります。そこで、マニフェスト型公開討論会の場合、客観的な行政の基礎データなどの判断材料(参照:資料編)を主催者側で用意し、コーディネーターなどが会場で解説するとよいでしょう。
 作成上の注意事項として、特定候補のマニフェストだけを引き立てる材料とならないように、行政白書に出ているような一般的な行政基礎データを普遍的に網羅するか、あるいは、どの候補のマニフェストにも共通している背景を裏付けるデータを選抜するようにしましょう。また、そのデータの出典を明示することも欠かせません。
 さらに調査・分析手法が客観的で信頼性の高いものであれば、必ずしも公的機関作成のデータである必要は無く、私立大学の研究成果や、全国情報公開度ランキング(全国市民オンブズマン連絡会議が調査・発表)などのようにNPOや私的機関が発表するデータでも構いません。

 次に、この行政基礎データの発表方法は、会場にパソコンやスライドの映像を投影し、コーディネーターなどが解説するのが一般的です。紙の資料として配布してもいいですが、印刷代がかさみますので、紙の資料は候補者とコーディネーターの手元資料としてのみ用意すれば十分だと思います。

 また、この説明の時間は、有権者の理解を支援することが目的なので、あまり多くの時間を要する必要はありません。公開討論会の最初にまとめて説明する場合は5分〜10分程度、質問の都度コーディネーター(または別途用意したコメンテーター)が説明する場合は、1分〜2分づつ程度が適当でしょう。

 

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