7.合同個人演説会開催のノウハウ

 

 

 

  7.合同個人演説会開催のノウハウ

 

 合同個人演説会固有の開催ノウハウ

 ここまで徹底的に公開討論会の開催方法について論じてきた。おそらくこれでほぼすべての課題を網羅していると確信しているが、最後に合同個人演説会の開催方法について言及してみたい。基本の考え方は公開討論会方式と同じだが実際の運営にはかなりの差異が見られる。今日まで公開討論会方式が実施された討論会の9割以上を占めているため、この合同個人演説会方式は普段の首長選挙や参議院選挙ではほとんど関係ないが、衆議院選挙などでは首相による突然の解散が起こることがあり、現実問題として合同個人演説会方式でしかできないことが発生しかねない。特に衆議院選挙を念頭においてこの方法について説明してみたいと思う。
  まず有権者から見れば「公開討論会」も「合同個人演説会」も何ら変わりはない。その時期が公開討論会は選挙公示日前であるのに対して、合同個人演説会は選挙公示日後というだけで、討論会の形式に変化があるわけではない。公開討論会と合同個人演説会のそれぞれのメリットデメリットは先に論じたのでここでは繰り返さず、運営方法の違いについて述べたい。
  先ず合同個人演説会は主催者が候補者自身になるということである。選挙期間中は候補者自身でなければ演説会は開けない。そこで例えその演説会が複数の候補による討論会であっても実施者は第三者がなることはできない。従って公開討論会において主催者となるわれわれはこの形式においてはコーディネーターの立場をとることになる。しかし現実には一つの議席をめぐり争っている候補者同士がお互い手に手をとりあって合同演説会を企画することは考えられないことである。従ってやはりこの場合でも呼びかけの主体はわれわれになる。非常にややこしい表現で恐縮だがこのあたりの関係性は理解しておいていただきたい。
  基本的な流れは公開討論会と同じ方法で行う。ただし選挙が始まった場合の名称は「合同個人演説会」にする。後は候補者の各陣営に公開討論会と同じステップで持っていく。この場合2つの方向性がある。これはまず公示日前の公開討論会で参加を候補者に依頼した後で、日程の関係により公示日以降に流れ込むという2段構えの場合と、また始めから選挙が始まってからの合同個人演説会方式で参加を依頼する場合と2つの方向性がある。
  どちらにするかは個々の選挙区事情が最優先されよう。そこで合同個人演説会形式の場合に注意すべきことが何点かあるのでそのことをよく理解していただきたい。

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 注意1、候補者の参加承諾の後、各陣営の代表者会議を開く

 合同個人演説会の場合は各陣営が建前としては主催者であるので、各候補の参加が決定した段階で各陣営の責任者に集まってもらい、運営の基本方針について打ち合わせをおこなう。この時に合同個人演説会のルールを徹底するとともに、この合同個人演説会がいかにして公平中立に運営されるかを徹底して伝えていただきたい。
  さらに、開催費用について主催者である各候補者が頭割りするということを確認しておく。例えば15万円が費用としてかかるとした時、候補者が3人であれば1人の拠出は5万円となる。それについては時に「そんな話は聞いてない」と怒る人もいなくはないので事前にそのことは伝えておいたほうが良い。またそんなに額のはるものではないのでこの数万円を出し渋る陣営はほとんどいない。
  会場費などの清算方法についてであるが、まず会場使用の領収書を出してもらうことを忘れてはならない。会場費とともに使用したマイクの使用料などの料金も合わせて参加候補者の数で均等割した領収書にしてもらうようお願いしておく。領収書は1枚しか発行しないというところもあるといけないので、その場合はコピーをする。その他かかった費用はすべて同様の意識をもったほうがよい。清算は会の終了前に各代表がいるところで一気に終わらせることが得策。あとで各陣営を回って、クレームが出たときには面倒なことになる危険性がある。

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 注意2、会場の申し込みについて

 演説会の会場は基本的に公営施設であれば各候補割り当ての無料会場を利用できる。その点はこの合同個人演説会方式の方が費用は大いに節減される。しかし一つ厄介なことにこの形式の場合、正式には立候補してからでなければ会場の予約ができない。そこで事前に別名義(カラオケ大会など、全く無関係でよい)で会場を予約しておいた上で、公示日を過ぎてから名義を変更できるように交渉しておく。

 

 注意3、選管への提出書類は各陣営連名で

 合同個人演説会で公営施設を利用する場合は、選管に届けなければいけない。これには選管が定める「個人演説会開催申出書」という書式を利用する。「その他事項」という記入欄に、個人演説会を候補者が合同で開催する旨と、全候補者名を連名で記載しなければならない。
  各候補者陣営のハンコをすべて押してもらった上での書類を提出しなければならないのでいささか面倒である。しかしこれも会場費用がまったくかからない形式の合同個人演説会であると考えればこれくらいの手間はなんということもないだろう。
  ところで、公営施設を利用する場合、開催予定日の2日前までに選管に届けなければいけない。たとえば、4月5日に合同個人演説会を開催するのであれば、遅くとも4月3日までには届け出ていないと公営施設は利用できない。
  また、会場にホテルなどの民間施設を利用する場合は、本項で述べた選管への届け出は不要である。

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 注意4、広報手段について

 この合同個人演説会方式にとって一つのネックは広報の問題である。選挙が始まっているので市民の関心も次第に高くなり、ほとんどが結果として多くの有権者を会場に集めることに成功している。しかし例えば選挙の公示前に演説会の日程が決定していたとしてもこれを有権者に告知できるのは公示日以降である。つまり、もしこの合同演説会の日程が公示日から2日後であるとすれば広報の時間が2日しかないということになる。さらに広報できる人は候補者陣営に限られ、裏方の第三者が公に広報することはできない。そうするとよほどうまくマスコミが取り上げてくれなければ有権者にこの合同演説会の存在を知らせることは難しくなる。実際合同個人演説会をかなり前から準備し候補者も参加の意思を明確にしているにもかかわらず、有権者につたえるすべを持たず、歯がゆい思いをしたことが何度かあった。従ってもし選挙公示日後に演説会を催す場合は、できる限り選挙投票日に近い時が望ましい。
  また、演説会の広報を第三者がするのは禁止されているが、記者会見を開いて新聞が報道する分には一向に構わない(テレビは駄目)ので、新聞各社にはこれらの背景を十分に説明し、積極的な報道を依頼すること。
  なお、この合同個人演説会は主催が各陣営であるので、各陣営の動員は公開討論会方式よりも多くしても差し支えないだろう。先の例でも述べたとおり、すべての整理券を各陣営に配布してそれをマスコミに告知して有権者はどの候補から整理券をもらっても大丈夫という形式にしたこともある。この例は有権者への告知期間が2日しかなかったための緊急避難措置であり、通常の合同個人演説会でここまでやるとやりすぎである。通常は、会場の半分を参加候補者数で割った数が各陣営の割り当てとしては妥当であるとおもう。
  選挙のなかで争点が明確である場合には特にマスコミによる報道の反響は大きく、会場はまず満員になる。マスコミとのパイプができていたらなおいっそう望ましい。

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 注意5、開催の時間について

 告示日前の公開討論会は、普通夜の19時から21時まで開かれるのが一般的である。しかし合同個人演説会の場合難しいのは選挙戦に突入しているということで各陣営が個々の演説会を連日企画しているので19時から21時というゴールデンタイムをあけることは非常に難しくなることである。それこそ日曜日の昼間であるとか土曜日の午後とかに合同個人演説会を催したら各自の演説会にはぶつからないだろうが、それでも選挙期間中の2時間を拘束されるのは候補者自身にとってはそんなに楽なことではない。マスコミが注目すれば各候補は喜んで出てくるが、そうでなければできれば避けて通りたいと思っていることもある。
  そこでこの合同個人演説会ではなんと21時から23時という夜遅く開催されることが多い。普通に考えれば非常識であるが、選挙期間であればこのほうが各候補も参加しやすい。またこんな遅くに開催した場合に人は集まるのだろうかという心配もあろうが、経験的にいえば選挙期間というのは非日常であり、結構参加者はあつまるものである。もちろん、合同個人演説会を19時から21時の時間帯で開催できるのに越したことは無い。しかし、以上の背景があることを十分考慮し、合同個人演説会の日程については夜遅い時間でも開催可能であることも念頭に入れて日程の調整をしていただきたい。

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 注意6、運営上の注意

 演説会の運営については基本的に公開討論会方式と変わりはないが、建前としては各陣営が主催者であるので、運営のお手伝いに各陣営から入っていただいても構わない。(ただしあまり負担をかけるのはまずい)これは事前に各陣営の代表者会議の時にはっきりいっておけばよい。
  それからもうひとつ気をつけていただきたいことは、合同個人演説会は選挙運動であるので、公職選挙法の数々の規制を受けるということである。
  まず、会場の外(会場の入り口、建物の外側、外回りの塀など)に掲示する立て看板であるが、「○○選合同個人演説会」という立て看板を会場の入り口に立てかけることはできない。逆に、衆議院選(小選挙区)、参議院選(選挙区)および都道府県知事選では、各候補の看板(正確には、選管が交付する表示板を付けた看板)は入り口に立てなければならない、というのだから矛盾している。しかし現行の法律ではこうなっているから仕方がない。
  かつて参議院選挙で合同個人演説会を開催した時に会場には看板を掲げることができなかった。しかしその時ある政党が大きな看板をもってきたのだがこの看板のほうが適法となって少しもめたことがある。
  そこで、衆議院選(小選挙区)、参議院選(選挙区)および都道府県知事選の場合は必ず、選管が交付する表示板を付けた看板を持参することを代表者会議で確認しておいていただきたい。そして当日になって掲示場所でもめることのないよう、掲示場所についても代表者会議で決めておくこと。
  厄介なのは、上記以外の選挙の場合で、こちらは各候補の看板を会場外に掲示しても良い(掲示しなければいけない、ではない)とされている。この場合、看板を持ってくる陣営とそうでない陣営がいると不公平になってしまう。
  上記以外の選挙の場合は会場にもってこないように、代表者会議で確認しておいていただきたい。
  次に会場内で配布できる資料であるが、これは選挙運動用ハガキに限定されている。候補者のビラやチラシは一切配布できない。もっとも許可されている選挙運動用ハガキにも、用意してくる陣営とそうでない陣営とがあると厄介なことになるので、これも配布しないことで、代表者会議で確認しておこう。
  一方、合同開催という運営上必要となる「タイムスケジュール」「質問用紙」「アンケート」などの資料(特定の候補者を当選させるためのものでない資料)は配布、回収していいかとなると、選管によって解釈が異なるが、大体の場合認可されている。
  また、公開討論会と違って「私に1票をお願いします」「山田、山田、山田をお願いします」という発言は法的には認められているが、これは合同個人演説会のルールとして禁止した方がいいだろう。
  なお、各陣営の責任者は決まった部屋に連絡ができるよう待機してもらうと急な変更ごとに対応が早くできるのでできればそうしたい。

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