A.
1:質問テーマ(国政選挙用)
(1)地域や選挙区特有の質問を入れない
2000年の総選挙を前にした多くの公開討論会で、地域や選挙区特有の問題がテーマに挙がっていました。確かにこれらの問題は地元有権者にとって大変な関心事なので、テーマに入れたくなる気持ちは
わかります。 また、小選挙区というのは市区村長選レベルの面積が多いので、どうしても”地元代表の先生”という感覚を抱きがちです。
しかし、地域や選挙区特有の質問を国会議員の候補者に問うことは、有権者が国会議員に対し、地域への利益誘導を促していることに近いものがあります。
また、国会議員とは憲法にも明記されているとおり”全国民”の代表であって、地域代表の集合ではありません。
選挙区というのは国民が投票しやすいように便宜的に設けられているに過ぎません。
実際、地域特有の質問に対し、「これ以上の詳細な回答はむしろ市長にお任せすべきでしょう」と回答に窮していた候補 もいました。その候補は市議や県議の時代には当該問題の専門家でしたので、もちろん個人的にはいくらでも詳しく回答できるのです。しかし国会議員の回答すべき範疇ではないと
いっているわけで、私は非常に良心的な候補と考えます。
主催者側もこの点をわきまえ、国政選挙の公開討論会では地域や選挙区特有の質問は避けるようにすべきでしょう。
(2)模範的なテーマ
国政選挙に対するテーマや争点の代表例を挙げてみましょう。
1.憲法問題を含めた防衛、危機管理に対する基本理念
2.荒廃する教育に対して具体的に何を行うか
3.日本の経済をいかにして立て直すか
4.赤字が膨れ上がった財政をいかに再建するか
5.税制をどのようにしていくか(所得税、消費税、法人税、相続税等)
6.高齢化社会、(または少子化社会)に対する対応
7.まったなしの環境問題をどのように解決するのか
8.政権構想
これらのテーマを「国家、国民、国益」の立場から、「具体的に」回答していただくことです。
また、1.〜8.を旬の話題や法案と組み合わせて、一歩掘り下
げた質問を1,2問入れるのも効果的です。この場合、最初にその話題や法案にYES/NOで明確に回答させ、その後理由をお答えいただくと、考え方の違いがはっきり分かります。
例1:ガイドライン関連法案が通過しました。日本の防衛という観点から憲法改正に賛成か反対か、理由を含め具体的
にお答えください。
例2:京都会議で約束した日本のCO2削減目標は達成できると思いますか?目標達成の為に国家として具体的にどの
ような手段をとる必要があると考えますか?
例3:凶悪化する少年犯罪に対して、少年法の罰則適用年齢
引き下げが討議されていますが、あなたは賛成ですか反対ですか?その理由も含めてお答えください。
2:質問内容の事前提示
事前提示する質問は、できるだけ詳細に提示してきましょう。可能な限り、当日にコーディネーターが質問する内容とそっくり同じ内容を提示しておくことが望ましいです。
質問内容を詳細に提示してしまうと、用意してきた紙を読み上げるだけになってしまい、実力の違いが分からなくなってしまう、だから「財政再建について」「環境問題について」とか、大枠のテーマだけを事前提示しておいた方が良い、とお考えの方が多いと思います。
ところが数多くの公開討論会を支援してきて、この考えは必ずしも正しくないことが分かってきました。
事前提示内容を曖昧にしておくと、回答も曖昧になりがちで候補の違いが分かりにくいことが多いのです。
なぜなら、すべてのジャンルに精通している候補は稀であり、優秀な候補でも得意分野以外は相当な予習をしなければ明快に回答できないからです。
むしろ、事前提示する質問を詳細にすればするほど、候補の違いが明確になります。
優秀な候補ほど、用意してきたメモをそのまま読み上げたりはしません。予習内容をベースにしながら、自分の体験談や知識、人生観などを交え、回答を膨らませていくものです。
これがライブの公開討論会の魅力であり、優秀な候補が光輝く場面でもあるのです。そして、優秀でない候補にしても必死で予習してくるわけですから、これは候補者を鍛えることにもなります。
さらに候補者が予習してきた内容は、これまで有権者が知らなかった事実や数字が提示されることがあり、有権者も大きな学びを経験することにもつながります。
3:会場からの質問受け付けは書面で
リンカーン・フォーラム方式では、会場からの直接の質問を
認めていません。理由は、「質問」という名を借りて、待ってましたとばかり自分 の意見を延々と語る人や、ひどいときは候補者への誹謗・中傷を発言する方がいるからです。公開討論会の時間がたっぷりあれば、それらの”意見”や”誹謗・中傷”
をコーディネーターが遮るのもいいでしょう。
しかし、日本語というものは結論が最後になりやすいものであり、
実は質問ではなく単なる意見だったというのは、最後まで聞いてみなければ分かりにくいものです。
また、一部の宗教団体や革新政党系市民団体などは、質問の中に巧妙に誹謗・中傷・スキャンダル暴露などを織り交ぜることが多く、コーディネーターがうっかりしてたり、地元の事情に精通
していなかったりすると、誹謗・中傷とわかりにくい場合が多いのです。仮に、コーディネーターがこれらの質問を遮ったとしても、限られた時間の中でこのような無駄な時間が費やされてしまうのは、多くの有権者にとって損失です。
しかし、主催者の中にはワイドショーの芸能レポーターがするような上記のような質問も「候補者の人柄が見えてよい」「候補者と有権者の距離が近づくので良い」「疑わしい候補には正義の鉄槌を下すべきだ」と考える方がいます。
けれども、ここは良く考えて欲しいものです。リンカーン・フォーラム方式の公開討論会は決して候補者に審判を下したり、品定めをするような場ではありません。むしろ、有権者が候補者と一緒になって自分の国や街の将来を考えた上で、自分達のリーダーを自らの意志で選び出す場なのです。
自分達のリーダー候補に対しては礼節を持って接するべきです。人柄を知りたいのであれば、政策に関する質問でも十分うかがい知ることが可能であり、あえて誹謗・中傷で候補者の反応を試すなどということは必要ないはずです。また、革新政党系市民団体が開催する公開討論会では、与党候補に対して誹謗・中傷質問が繰り返され、与党候補が怒って退場してしまうということが何度もあったのです。そして、その市民団体や主催者メンバーは信用を失うことになります。
これらのリスクを総合して考えると、仮に会場から質問を受け付ける取る場合は、質問用紙で受け付け、スタッフが内容を吟味するというルールを徹底すべきです。
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