A.
1.質問は事前に、かつ、できるだけ詳細に開示するのが望ましいです
質問は候補予定者に事前に、かつ、できるだけ詳細に開示してきましょう。可能な限り、当日にコーディネーターが質問する内容とそっくり同じ内容を提示しておくことが望ましいです。
質問内容を詳細に提示してしまうと、用意してきた紙を読み上げるだけになってしまい、実力の違いが分からなくなってしまう、だから「財政再建について」「環境問題について」とか、大枠のテーマだけを事前提示しておいた方が良い、とお考えの方が多いと思います。
ところが数多くの公開討論会を支援してきて、この考えは必ずしも正しくないことが分かってきました。
事前提示内容を曖昧にしておくと、回答も曖昧になりがちで候補の違いが分かりにくいことが多いのです。
なぜなら、すべてのジャンルに精通している候補は稀であり、優秀な候補でも得意分野以外は相当な予習をしなければ明快に回答できないからです。
むしろ、事前提示する質問を詳細にすればするほど、候補の違いが明確になります。
優秀な候補ほど、用意してきたメモをそのまま読み上げたりはしません。予習内容をベースにしながら、自分の体験談や知識、人生観などを交え、回答を膨らませていくものです。
これがライブの公開討論会の魅力であり、優秀な候補が光輝く場面でもあるのです。そして、優秀でない候補にしても必死で予習してくるわけですから、これは候補者を鍛えることにもなります。
さらに候補者が予習してきた内容は、これまで有権者が知らなかった事実や数字が提示されることがあり、有権者も大きな学びを経験することにもつながります。
2.質問の事前開示する主催者は、候補者に安心して受け入れられます
質問を事前開示すべき理由として、上述のほかに、この公開討論会が候補者に安心して受け入れられるから、という理由があります。
まず、議論があまり得意でない候補者(一般的に多選を重ねた年配の現職や、落下傘候補の新人に多い)であれば、突然の質問しか出ない公開討論会は怖くて参加できないという心理が働くでしょう。
仮に本人は出席する気があっても、周囲の選対や後援会が「わざわざリスクをとる必要はない」と出席を取りやめさせることが大半です。
では、議論が得意な候補であれば、突然の質問を歓迎するかというと、必ずしもそうではありません。選挙ですから、当然「この討論会は自分のアピールに有利か、不利か?」という判断が働きます。特に候補者の選挙対策本部が気にするのは、「この主催者は、一見中立を装っているが、実際は敵陣営に肩入れしていないか」という点です。
質問を事前開示しない主催団体は、もしかしたら自陣営に不利な質問ばかりを集中的に投げかける偏向した団体かもしれないと疑ってかかるのは、選対や後援会の心理です。
実際に、リンカーン・フォーラム方式でない主催者が運営したものの中には、質問を事前開示せずに、特定の候補を集中的に糾弾するような偏向した討論会や、その主催者と利害関係にある特定の政治課題だけに質問が集中した討論会がありましたから、上記の選対の心理はリスク管理として当然のことです。
そして、この討論会への出席はリスクが高いと思われてしまっただけで、討論会へは出席いただけません。もし、候補者が2名だけの選挙であれば、もはやこの時点で公開討論会は成立しません。
したがって、質問を事前開示することは、候補者側に、この企画が安心できる公平・中立な内容であることを証明することでもあるのです。
3.工夫次第で、突発的な質問への対応力を見ることが出来ます
以上の通り、公開討論会のスタイルとして一番ポピュラーな、
・質問は主催者が用意する
・「1問1答+反論」形式で行う
あれば、質問は事前開示することがのぞましいです
しかし、公開討論会の主催者として、突発的な質問への対応力を判断できる機会を提供したい、という気持ちはよくわかります。実は運営方法の工夫次第では、それも可能となり、すでに数多くの討論会で実践されています。
それは、主催者が質問を用意する従来のスタイルに、
”主催者が用意しない”質問への回答時間を組み合わせる方法です。
以下、候補者に受け入れられる順に提示します。
(1)一般有権者からの質問を行う
これには、
・事前に質問を新聞やホームページで一般公募する方法
・当日の来場者から書面で質問を受付け、代表的な質問を
集約して、コーディネーターが代読する方法 (参照)
があります。
この方法は、有権者が行政全般のどこに強く関心を持ってい
るのかよくわかるので、候補者にも大変喜ばれます。
(2)フリーディスカッションにする
<参考>
Q&A フリーディスカッション形式の進め方を教えてください
フリーディスカッションであれば、主催者が用意する質問は
「財政再建について」などの大きなテーマであり、各論につ
いては、ディスカッションの流れの中で、候補者同士やコー
ディネーターが突然質問することになります。
特に、上記のQ&Aにあるように、コーディネーターが絶妙
のタイミングで的を射た質問を出すことができれば、候補者
の実力がはっきり分かります。
(3)ディベート(候補者同士の1対1の討論)にする
候補者が別の候補者を1名指名し、自ら質問して、回答に対
し反論を繰り返すスタイルです。
質問する側は、相手にとって最も痛い質問を投げかけようと
周到に用意してきますので、「突発的な質問への対応能力」
を判断しやすい方法です。
それだけに、このスタイルは敬遠されがちですので、候補者
に受け入れていただくためには入念な準備が必要です。
◎ ◎ ◎
最後に追記します。
リンカーン・フォーラムのQ&Aは、公開討論会主催者が千回を超える成功と失敗から積み上げた経験則ですので、このとおり実行すればほぼ確実に成功します。
一方、このとおりに実施しないとほぼ確実に失敗することは、過去の失敗事例が雄弁に物語っています。
ではなぜ、この経験則が有効なのでしょうか?
それは、リンカーン・フォーラム方式の哲学に、候補者に対する「おもてなしの心」があるからだと私は思っています。
実際の選挙はひとつとして同じものはなく、選対の心理や、候補者間のパワーバランスも千差万別ですが、主催者が「おもてなしの心」を基本理念とすれば、必ず候補者に受け入れられる行動に結びつくからです。
私自身も、複雑な相談を持ちかけられて対応に悩むときは、常にこの候補者に対する「おもてなしの心」に立ち返るように心がけています。
そして、今でもQ&Aや『公開討論会完全マニュアル』を何度でも読み返し、気持ちを新たにします。
Q&Aや、『公開討論会完全マニュアル』には、単なるイベント運営ノウハウだけでなく、「なぜその行動が必要か?」というリンカーン・フォーラムの大切な哲学が一杯詰まっています。
初心者はもちろんのこと、ベテランもどうぞ何度でも読み返してください。
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