〜「公開討論会」 これまでになかった全く新しい市民運動〜

[寄稿] 『We Believe』 (2005.03.18)


内田 豊(リンカーン・フォーラム事務局長) 

  「公開討論会は市民運動ですよね?」と問われたら、私は「これまでになかった全く新しい市民運動です」と答えている。市民運動の定義は難しいが、一般的には「他者と利害が対立する」「成果が出にくい」「長続きしない」などのマイナス面を持っていることが多い。ところが公開討論会を開く活動はこれらのマイナス面を払拭するばかりか、これまでの市民運動にはなかった@win-winの関係、 A北風と太陽の関係、 B学び・啓発の場、 という3つの特徴を兼ね備えていると私は考える。

 @Win-Winの関係 とは、この公開討論会に関わる、来場者・候補者・主催者の全てが喜ぶことを指す。来場者の8割以上が「満足」とアンケートに回答しており、さらに敵同士の候補者も、終わってみれば満面の笑みをたたえてくれる。意外かも知れないが現職ほど、「これまでの実績を十分にアピールできた初めての機会だった」と喜ぶ。そして主催者はかつてないほどの充実感を得ることが出来る。このように関係者全てがWin-Winの関係を構築できる活動は多くない。

 A北風と太陽の関係 とは、優秀な候補を政治の場に送り出す手法の違いを指す。公開討論会を開こうとする人たちは、かつて選挙運動を手伝った経験のある人も多い。街頭でビラを配ったり、電話で投票を呼びかけたりと、それは大変だったろう。しかし、喉を枯らして「この人は素晴らしい」と北風のように訴え続けても、有権者はコートの襟を立てるばかりで一向に聞いてくれない。そしてその候補が落選すると、これまで一致団結して運動してきた仲間同士が「お前が手を抜いたからだ」と責任を擦り付け合い、信頼関係がバラバラになってしまう。これは悲しい光景だがよくあることなのだ。
 ところが公開討論会では、素晴らしい候補がいたとしても「この人は素晴らしい」などと一言も発する必要は無い、どの候補にも完全に中立公平に、太陽のごとく光を燦燦と降り注ぐだけでよい。すると、優秀な候補はおのずと光り輝きだし、有権者にはそれがひしひしと伝わり、無名の新人でも当選していくのだ。まさに北風と太陽の関係である。

 また、公開討論会は一般的に候補者の政策を比較・選択する場と解釈されている。ところが実際は B学び・啓発の場 であることのほうが重要だ。学び啓発されるのは、まずは有権者である。有権者は最初「誰が一番か見極めてやる」と、評論家にでもなったつもりで、椅子にふんぞり返って聞いている。ところが討論が進むうちに、自分の街が大変な課題を抱えていることに気づく。そしてその課題をこれまで放置していたのは、自分がきちんと投票しなかったために失政が続いてきたことに気づくのだ。討論会の後半では誰もが前のめりになり、メモを取り出すのである。
 また、候補者はものすごい予習をしてこの討論会に臨むので、公開討論会は候補者を鍛える場でもある。そして、この活動を通じて一番学ぶのは、実は主催者だ。ある公開討論会の代表が、終わってから語った「自分一人の力がこんなにすごいとは思っていませんでした。この1ヶ月は自分自身にとって10年以上の学びをしたような気がします。」という言葉は、この活動の本質を最も的確に言い表している。

 最後に、公開討論会には「来場者で満席になると投票率が向上する」という統計データがある。2005年3月の千葉県知事選でも、主催者のJC千葉ブロックらが合計2,900人もの有権者を集客した結果、全陣営が投票率7ポイント低下を予測する中、6ポイントの上昇となった。誰も出来ないことを成し遂げられることほど嬉しいものは無い。


 







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更新日 2005年08月06日