平山康樹(松下政経塾 第20期生)
公開討論会開催に向けて
4月20日、私の地元福岡において次の衆議院議員総選挙に向けて公開討論会を開く為、リンカーン・フォーラム福岡が発足した。これは国政、地方選挙において政策論争を起こし、より多くの市民の政治参加を促進し、我々の代表を選んでいこうという全国的な運動の福岡版で、これまで全国の首長や参議院選挙などで行われてきた。今度の総選挙ではこの討論会を将来に向けて定着させるべく、初めて300ある全部の小選挙区での開催を目指している。福岡でもそれに遅れまいと結成されたわけであるが、当日は大学教授、会社員など9人が集まり、その後の活動方針について話し合った。これまで福岡においても首長や参議院選挙で開催された実績があり、当日はマスコミによる取材もあり、このような活動に対する関心の高まりも感じられた。
公開討論会の意義
リンカーン・フォーラム福岡はその設立趣意書で、超高齢化の問題、財政の極度の逼迫、不況の長期化、税負担の増大、環境破壊、教育の崩壊などの問題を冒頭で指摘し、これらの問題に対処するためにも国民が「政治に責任と自覚をもって取り組まなくてはならない時代」が来たと訴える。そして「人民の人民による人民のための政治」を理想とする民主主義をより日本で根付かせるためにフォーラムを結成したと宣言し、その為の活動として公開討論会の開催を呼びかけている。それは日本の選挙において政策論争がほとんど行われていないのを問題意識とし、選挙がただの選挙カーによる名前の連呼やビラの配布等に頼るのではなく、公開討論会を開催することによって市民に選択の機会を与え、政治家を選ぶ新しいルールを日本に根付かせたいというものである。
このような政策論争の場は欧米では十分根付いている。アメリカにおいては大統領選挙で度々、TVで討論会が行われ、それが選挙の勝敗を左右すると言われている。議会選挙においてもそれぞれの選挙区でまず、党の代表を決めるために予備選挙が行われるが、ここでは候補者選びから論戦が行われ、本選挙でも候補者を集めてTVや商工会議所、青年会議所などが主催する討論会が恒例となっており、選挙では激しい政策論争が行われていると言える。民主主義国家日本においてこれまでこのような討論会が根付くような形で制度化されなかったのが不思議なくらいである。
フォーラムの設立趣意書では公開討論会の意義を「1、有権者が政策や人柄あるいは政党の根本方針を見極める機会になる。2、政治の抱える問題点や課題が鮮明になる。3、選択の基準が明確になる。4、候補者が、政策や理念を有権者に訴え共感を得る機会となる。」としている。私としてはこれに加えて、この討論会が1度投票離れした市民の関心を呼び起こすものとして期待する。世に政治離れが広がったと言われて久しいが、しかし、政治に関心はあるが選挙に行かないという人も多いと考えるからだ。これまでの選挙では候補者の名前の連呼を街宣車から聞くだけで候補者がどういう考えを持っているかも分からず、選挙に行かない人も多かったと思う。私自身、かつてはそういう時もあった。しかし、前回の統一地方選挙で私の地元の市長選挙で公開討論会は開かれたが、それに参加することで選ぶ側も選挙での選ぶべき候補者を確信をもって決めれた。
次は小選挙区制度が導入されて2度目の選挙である。そういった意味ではこの制度が今後どういう形で定着していくかを見極める上で重要な選挙になると言えるだろう。この制度は本来、カネのかかる選挙をかからないものにし、政策論争を政治の場に起こすと言う意味で導入された。しかし、前回の選挙では相変わらずカネはかかり、政策論争も起こっていたともいえず、このままでは選挙区が小さくなっただけに現職有利のドブ板選挙になるのではないかと言う懸念の声も聞かれた。今度の選挙では大物長老議員が多く引退するが、その後継者には多く、二世が出馬すると聞く、2世議員を否定するわけでもないが地元で持つ力などではなく、能力優先の候補者選びにするためにも、討論会は意義あるものだと言えよう。趣意書はその末尾で「福岡県から国政に参加される代表者選びのあり方を良いものにし、夢と活力のあるすばらしい日本の社会を創って子供たちに手渡ししようではありませんか。多くの方がリンカーン・フォーラムに参加され、ともに歩まれることを念願してやみません。」と訴える。
討論会の準備に携わって
翌日から、地元選挙区での討論会の準備にとりかかる。スタッフの募集、会場の確保、各立候補予定者への申し入れである。反応は様々ですでにマスコミ等の報道で討論会について理解があり開催に協力的な所もあれば、初めての試みのためにそれを開催する意図を疑われ、背景などを探ろうとするところも。そのたびに、討論会についての新聞記事を見せたり、中立な立場での活動で討論会の際のルールを話し、どこかの政党を支援するものではないことを説明した。候補者からはFAXで参加の是非を回答してもらうという形にした。懸念された出席状況であるが、概ね反応はよく、ほとんどの候補者が現職を含め、出席と回答してきた。コメントとして、「立会演説会が廃止されたので、この種の試みは有意義と思う。」と、自民党の有力議員は派閥の候補者支援のため、地元にほとんどいないのを調整して参加できるようにしてきたのをはじめ、「べからず選挙から市民参加の開かれた選挙にするためにも、皆様の活躍に期待しています。」とエールを送る候補者、「この討論会は民主主義の根本をなすものであり、権威あるイベントとして根付くよう期待する。」という意見などである。最初の意見に指摘の通り、かつて立会演説会はあった。しかし、それは候補者の応援合戦の場になってしまい、禁止されたという苦い過去がある。
今後、討論会が根付いていくかは今回の成功にかかっており、失敗すれば討論会は日本では今度こそ行われなくなるかもしれない。そういった意味では今回の討論会の果たす使命は大きいと言えるだろう。福岡では5月の下旬から公示前までにこれから各選挙区で開かれる予定である。今回の討論会で、候補者の能力を問う選挙の下地はできつつある。政治家志望者は能力の磨き甲斐がある時代が来たと言えるだろう。