参議院選(千葉)

〜参議院立候補予定者による公開討論会について〜


石川武洋(松下政経塾 第18期生)

 

 1.本報告の論旨

 
@ 市民・マスコミが協力することによって、選挙における公開討論会の運営を支援する体制を作るべきである。
A 立候補予定者の出席を促すような雰囲気の醸成、広報体制を整えていく必要がある。
B 将来的には、ディベート・討論の場としての公開討論会となることを期待する。

 2.公開討論会はどのようなものであったか

 98年6月20日に、参議院選挙の立候補予定者の参加による公開討論会が行われた。主催は、市民団体の「’98参議院選公開討論会をすすめる会千葉県」、会場は千葉県船橋市民文化ホールにて開催された。

 開催日の6月20日時点で、当初6名の立候補が予定されていたが、実際に出席したのは4名に止まり、現職2名は欠席であった。 私は、会の代表からお誘いをいただき、本討論会のコーディネーターを勤めさせていただくこととなった。もちろん、市民の手による討論会であることから、私も中立の立場で進行を担当させていただいた。公開討論会は、事前に立候補予定者に提示したルールにより運営された。主なルールは以下のようになる。

 ・ 討論方法

 
@ 政策・公約発表の時間は、一人10分、質問の回答の時間は一人3分を2回
  注)3つの質問を各立候補予定者にうかがった

 ・ ルール(候補予定者側)

 
@ 政策・公約発表の時間は、公職選挙法に定められた範囲(特に投票依頼の発言は厳禁)で、自由に発言
A 他の候補予定者(欠席の方も含め)への誹謗・中傷は禁止

 ・ ルール(会場側)

 
@ 野次や罵倒は禁止
A 候補予定者の発言中の拍手は禁止
B 発言や進行に対して、度の過ぎた行為や妨害があるときは退場 このルールは公正・公平・中立を期すために作られており、特定の候補予定者に不利になるようなものではない。

 3.討論の結果

 討論は、現職の2名が欠席されたことにより、互いの政策の違いや、現在の社会についての認識の違い、政権党のとってきた政策への評価等を有権者が知ることは、残念ながら十分にできたとは言えなかった。しかし、参加した立候補予定者は政策を分かりやすく説明していたため、有権者はそれぞれの政策の理解は深まったものと思われる。 また、場からの質疑応答などを通じて、有権者が冷静に政治家の発言を聞いていることが分かった。有権者の求めている政治とは以下のようなもではないだろうかと推察された。

@ 表面的なリップサービスや、定型的な表現は心に響かない。(例、福祉の充実!景気の回復!)
A 現状を分かりやすく説明して欲しい。(たとえ、悪い現状であっても)
B 具体的な政策提言が欲しい。(何時までに・どのような政策を導入、市民への影響はどの程度、いつ頃良くなる)
C 将来の明るい日本の姿を「目に浮かぶように」説明して欲しい。
D 「納得!」と思うまでの説明が欲しい。

  4.公開討論会について思うこと

 この討論会を通じて思うことを、2つ述べる。 @ 政治家の仕事とは A 公開討論会の運営者と今後のあり方

  @ 政治家の仕事とは
  ビートたけしの「落選確実選挙演説」(新潮文庫)にこのような一説がある。

 「信用できる政治家というのは、敵を作る一言が言える政治家なんだよ。もともと、どうやってリスクを背負って、どうやって恨みを買うかというのが政治なんだ。それを避けるようなことばかり本に書いている政治家なんて、はなから怪しいんだ。」

  一般論として、政治家は選挙において過去の政策を批判・攻撃されることを避けてはならない。政治を行うということは国民の負託に答える義務を負ったことであり、同時にその結果の責任を負うことと同義であると思うのである。現在の、景気動向や行政改革の進捗状況、財政の逼迫、社会福祉の見通しの暗さを考えれば、公開討論会への出席をしないことも一つの選択のうちなのかもしれないが、有権者から見れば貴重なチャンスを失ったことになるのである。

  今回の公開討論会は参議院選挙における初めての試みである。今後もこのような会を開催して国民が討論会を認知し、各候補者の政策を吟味しようとする状況を作りだすことが出来れば、立候補予定者が欠席することはなくなると思われる。

  A 公開討論会の運営者と今後のあり方
  今回の公開討論会では、1100人収容の会場を用意したのだが、実際の参加者は200人程度にとどまった。その理由としては以下のことが考えられる。

A) 参議院選挙における公開討論会の試みは今回が初めてであり、市民の認知度がまだ低い。
B) A) との関連で、公開討論会における政策討論のおもしろさを有権者がまだ知らない。
C) 市民有志による運営がなされていたのだが、金銭的・物理的な要員の数などの面で制限がある。
D) 参議院選挙そのものへの有権者の関心が低い。

  A) B)については、今後実績を重ねることによって認知度も深まるものと思う。可能であるならば、各候補者が持ち時間の中で互いの政策への提言・論評も加えられるような「ディベート形式」の討論会となれば、有権者にとって政策の争点や問題点が明確に なって、有権者にとって有益であると思う。C) については具体的な解決方法を現時点において見つけることは難しい。公開討論会を企画・運営する方々は、仕事を抱えており大変忙しい方ばかりである。その中で時間をやりくりして運営会議を開催し、ビラ配り・マスコミへの宣伝活動を行い、各立候補予定者への参加依頼をしていたのである。(全く頭が下がる思いがする)
  それでもなお、広報体制を充実させなければならないとしたら、それは大変な労力を必要とする。

 では、どうしたらよいのであろうか。今すぐ実現するとは思われないが、マスコミが積極的にこのような場を設けることを支援できる状況を作りだすことが良い方法であると思う。政治をチェックする機能を持つマスコミが関われば、立候補予定者の参加へのインセンティブを働かせることになる。

  5.最後に

 選挙は、政党・政治家を選択することであり、それは同時に政党の政策、政策の実現能力を選択することである。つまりそれは同時に有権者の明日の生活を選択することと同じである。……と私は思う。このような先の見えない不況の中で、それでも将来の日本の方針を示し実現することが政治の役割である。

  今回の討論会における会場からの質問内容を見ると、福祉・環境・行政改革の題目をそのまま信じるのではなく、財政的裏付け・実現までのスケジュール・政策を導入することによる市民生活への影響などを冷静に見て取っていることが分かった。有権者が政治を見る目は非常に厳しくなっている。政治家の表面的なリップサービスは、決して有権者の理解を勝ち取る手段とはならず、むしろ有権者から見透かされ、見放される結果となるのではないかと思われた。

  最後に、公開討論会という貴重な場におけるコーディネーターの機会を下さった「’98参議院選公開討論会をすすめる会千葉県」の皆様には、心からのお礼を申し上げる。また、ここに書かれたことは、「’98参議院選公開討論会をすすめる会千葉県」の意見ではなく、全くの私個人の意見であることを申し添える。
 







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更新日 2000年12月7日