リンカーン・フォーラム代表 小田全宏
今回の総選挙では市民の手による公開討論会が燎原の火の如く各地で開催された。結局300選挙区のうち過半数を超える151ヶ所で公開討論会が開催されたことになる。1996年から始まった公開討論会がいよいよ市民権を得た瞬間といえよう。もちろんこれは私自身が始めた事では在る。しかしもはや私自身の手を離れ自己増殖し始めた。おそらくこの動きはもはやだれも止めることはできないだろう。
今回100人に及ぶ記者の方から取材を受けた。その中で全ての記者から聞かれたことはなぜ今このように大きなうねりのように公開討論会が起こってきたのかということだった。わたしはやはり有権者の中にある潜在的な欲求にこの討論会が合致したのであろう。実際新聞をみてもその候補者の人となりはよく分からない。ところが公開討論会に出てみるとその人の政策のみならず人となりが実に良く分かる。そしてそれが波紋のように広がってくるのである。
私は今回いささか畏れたことは自民党が党本部で全員欠席を決議するということである。もしそうなったら各地で民主党と共産党の候補者で公開討論会がひらかれることになる。しかしこれでは本来の意味はないだろう。ところが今回思いのほか自民党の候補者の方々もよく出席していただいたように思う。確かに各地で出席を拒まれる候補者も少なくなかったが概ね好意的に受け取っていただいているようだ。これは今日までのリンカーンフォーラムの手法が候補者のなかである一定の信頼を持ってきたということである。
5月31日付けの讀賣新聞ではこの公開討論会に対する自民党の興味深い記事が大きく取り上げられていた。「地球市民会議によると、一昨年の参議院選で公開討論会が開かれなかった23県のうち半数以上は自民党候補が参加を断ったのが理由だったという。しかし、今回、同党本部は「出欠は個人の判断だが、地球市民会議がサポートしている討論会なら大丈夫だと答えている」(選対本部)と協力的な姿勢に転じた。」
今回宮城県をはじめ北海道、岩手、千葉、東京、福岡、滋賀、神奈川、などほぼパーフェクトに公開討論会が実施された県も少なくない、これは各地のリーダー達がフル回転して活動して下さった結果である。あらゆる条件が公開討論会の普及に良い方向に向かっていったような気がする。深い感謝の念で一杯である。
また今回非常に役に立ったのがインターネットである。メーリングリストと呼ばれる実行者のネットグループにおいては開催に関する質問は瞬時に解決される。これがあったために200箇所の実行委員会の立ち上げに成功したのである。かつてこれがないときには一時に4箇所の公開討論会を企画運営しただけで事務所はパンクしてしまった。しかし今回ほとんどそのような問題が発生しなかったのはひとえにインターネットの利便性によることが少なくない。
またこの4月に「候補者を見極める公開討論会の開き方」(毎日新聞社)が刊行されたことも大きい。これは正に公開討論会を開こうとする人たちのバイブルといっていいものでこの衆議院選挙を経てみてもいささかも修正の必要性を感じない。これが討論会の実行者ならびに候補者そして選挙管理委員会において確実に広がればこの公開討論会はもっと明確に日本の選挙において根付くだろう。実際これだけ広がりかなりの選挙管理委員会はこれを理解しているが時に全く公開討論会の存在を知らないとぼけた選挙管理委員会も存在する。ある選管から全く的はずれの質問が来たので「あなたは全国で公開討論会がひろがっていることはご存知ありませんか」と聞いたところ「私は毎日選管に詰めていてテレビを見る時間がありません」と来た。テレビは見なくとも新聞は読んできればこれだけでている記事が目に入っていないというのはよほど関心がないのだろう。
しかしもはや公開討論会はあたりまえの選挙の風景になりつつある。 おそらくこれからはあらゆる選挙でこの公開討論会が開かれてくるのであろう。