GCFレポート巻頭言(99年5月号掲載)
リンカーン・フォーラム代表 小田全宏
4月の統一地方選挙はリンカーン・フォーラムが大車輪の活躍をした時でした。全国129ヶ所で実行委員会が立ち上がり、80ヶ所近くで、開討論会が実現しました。これだけ大規模に行ったのにもかかわらず、全体として、特段困難な問題が発生しなかったのは、各地で活躍されたメンバーの方々の並々ならぬ努力の賜物と心から感謝しております。
今回は東京都知事選のような巨大な選挙区から始まって、あらゆるレベルの地方選挙が行われたわけですが、市長選や町長選のような首長選では、平均して500人を越える人が会場につめかけてきました。ただ県議選では、どこも低調で、100人を少し越えるぐらいの人しか集まりませんでした。これは如実に有権者の関心のレベルを示している数字だと思います。
今回、どの公開討論会も素晴らしく意義深かったとは思いますが、中でも、私が注目していたのは、町長選や村長選、あるいは町議会選や村議会選挙などの小さな選挙戦での公開討論会でした。はたして人口が、5000人に満たない田舎の村で、公開討論会が開けるものなのだろうか、私はいささか心配もし、その実現に対し、気をもんでいました。
しかし今回実際に行ってみて、思ったよりも大きな反響が各地でおこり、あらためてこの公開討論会が都市部のみならず、地縁血縁が絡み合った地方でも価値あるものになることが実証されました。
4月14日、村長選のコーディネーターをするために、岐阜県の白河村を訪れました。ここはご存知の方も多いと思いますが、合掌作りの家々が世界遺産として知られた山村で、今では海外からも多くの人たちが観光に訪れます。南北30kmに細長く伸びたこの村では、1600人程の人たちが暮らしています。今回の選挙選では、現職の村長に対して、前教育長が挑み、一騎打ちとなりました。
そこで村の商工会の青年部が中心となって、公開討論会をやろうということになったのです。メンバーの方々が、わざわざ5人も東京においでになり、熱心に公開討論会のやり方を聞いて帰られました。はたしてどうなることかと思っていたのですが、様々な困難がありながら、なんとか実現にこぎつけることができました。
当日、私は富山空港から白河村に入ったのですが、雨がふりしきる中、一体何人の人たちが集まってくれるか、気が気でありませんでした。しかし、開場になると、続々と人が集まり始め、開会の7時30分には、250人の人で会場はぎっしりになりました。
1時間半の討論、失礼な言い方ですが、はたして山村の村長候補の人たちが、どれだけきちっと自分の考えを伝えることができるのか、それも心配の種の一つでした。
しかし、実際に討論が始まってみると、両者とも熱心に、また重厚に自分の考えを開陳し、参加した有権者の人たちも、実に熱心に候補者の一言一句に耳をそばだてていました。私はコーディネーターをしながら、おおげさな言い方ですが、崇高な思いが溢れてきました。人口が2000人にも満たない小さな村で、公開討論会が粛々と進んでいく姿を見る中に、日本の民主主義の夜明けを感じました。
どちらの候補も指先は震え、声がうわずっていたものの、それだけに真剣さが伝わってきました。
選挙結果は、706対704。何と2票差という微差で、新人が現職を破り、投票率は96%となりました。
この模様は、筑紫哲也さんのニュース23でも取り上げられ、ごらんになった方もいらっしゃるかも知れません。公開討論会が大きな一歩を踏み出した瞬間です。
今回の統一地方選挙の結果はやがて集計し、ホームページに掲載しますので、またご覧いただきたいと思います。これからまた一休みする間もなく、次の日程である衆議院選挙、300選挙区にエネルギーを傾けていきたいと思います。