参議院選
参議院選を民主主義蘇生のターニングポイントに


GCFレポート巻頭言(98年5月号掲載)
リンカーン・フォーラム代表 小田全宏


  先日“タイタニック”を見た。アカデミー賞を独占という鳴り物入りの上映だったが、さすがに、画面の迫力は群を抜いており、久しぶりに、「映画を見たぞ!」という余韻にひたることができた。
  おそらく皆さんの中にも、ご覧になった方が少なくないと思うのだが、筋書きは、1914年に起きたタイタニック号の沈没という歴史的惨劇の中で繰り広げられた悲恋の物語である。
  この映画は様々な見方があると思うが、私は、映像の上に、これからの日本と世界の姿が重なって見えて仕方がなかった。

 当時のタイタニックは、世界最大の豪華客船で、絶対に沈まないと言われていた。全長300mに及ぶ巨躯であり、その処女航海を多くの人が祝った。  全速力で大西洋を航海中、他の船から幾多となく氷山の存在に対する警告が入ってきていた。しかし、クルーはその警告を無視し、鏡のような海上を、暗夜すべる様に船を走らせた。
  マストに立っていた見張りが。500m前方に巨大な氷山を見つけた時は、すでに手遅れだった。
  氷山と正面衝突することは避けられたものの、船の横わき腹が氷山に激突し、海水がタイタニックの中に激流となって流れ込んでいった。
  タイタニックを設計した人物もこの処女航海を楽しんでいたが、事実を知って、タイタニックが後1時間半で水没することを断定した。

 しかしそれでも、一等船室の大食堂では何事もなかったかのように、夜の宴が続いていた。
  タイタニックが水没することが全乗組員に伝えられるや船内は大パニックになった。我先に救命ボートに乗り込もうという人たちで大混乱になったが、そんな中でも様々なドラマが展開されていた。人生の最後も一緒にと、手に手をとり合って海に沈んでいった老夫婦、最後の最後まで、音楽を奏で続けた楽団員達、名誉ある死を決意し、救命胴衣を脱ぎ捨てた軍人、人々と祈り続けた牧師・・・・etc.
  やがて、大音響とともに、タイタニックは海のもずくとなり、2000人のうち、1500人の命が失われた。20世紀最初の惨劇であった。

 もし、日本や世界が平穏のうちに21世紀を迎え、幸福な新しいミレニアム(千年)がスタートできるなら、何も心配することはない。
  およそ世紀の終わりには、いつも忌まわしい終末思想が世を覆うものであって、今回も単なる気分の問題と片づけることができれば、これほど簡単はことはない。

 しかし、あらゆるデーターは、21世紀が我々人類にとって、かなりの厳しい状況になることを示唆している。地球環境問題、大食糧危機、発展途上国の人口爆発と先進国の人口減少、財政の破綻、心の荒廃、ジオカタストロフィによる大戦争の危機、凶悪なテロ・・・etc.
  どれも我々は、避けては通れない問題である。日本は戦後50年間で、世界の大経済大国になったが、21世紀以降も今日までの繁栄がこのまま続くと考えているのだろうか。いや、もうすでに、氷山に激突し、海流が流れ込んできているのではないのだろうか。

 国家にはその誕生と衰亡があるという法則を見抜いたのは、A・トインビーだが、ローマ帝国の衰亡までさかのぼらなくとも、たかが、100年前に、全世界に陸地の6分の1をイギリスが領有し、ユニオンジャックが旗めいていたという事実を想起しても、国家の隆盛の時期が、いかに短くたわいのないものかということが理解できた。

 今の日本は、あの栄華を極めたビクトリア朝の末期と同じ様相を呈しているのだ。
  私たちもバブルがはじけて以来、何がおかしいとは思い始めている。しかし、どうしてよいかわからない。本来国民に対して、国家の危機を伝え、行くべき道を探し示すはづの政治が全くといってよいほど、リーダーシップを発揮していないのだ。

 今度行われる参議院選挙は、本来なら、日本の進路に大きな影響を与えるべき重要な選挙になるはずなのに、人々の関心は一向に盛り上がらない。
  先日、読売新聞で、今回の選挙は、20世紀最後の選挙であり、衆議院に小選挙区制が導入されて以来始めての参議院選である。もし日本に政権交替可能な2極ができうるかどうかを占う岐路である。
  今、橋本政権に対する支持は、末期的に低下しているが、それでも選挙をすれば、自民党が負ける確率は極めて低い。それは、野党が全く国民に向かって骨太の政策とビジョンを掲げ訴える努力を怠っているからだ。

 イギリスは、長年の労働党の政策によって、「ゆりかごから墓場まで」と言われる極度な福祉政策によって、がんじがらめになり、税率は70%を越え、経済は疲弊していった。しかし、そこに、登場したM・サッチャーは、ハイテクの自由主義思想をバイブルにし、政敵を打ち倒し、イギリスを蘇生させた。その政治のダイナミズムは、やがて労働党の政策の大転換を促し、現在ブレア首相が新たなチャレンジに取り組んでいる。

 残念ながら、我が国には、そういう政治的ダイナミズムが存在していない。多くの国民は決して、今の自民党政治に満足しているわけではないが、さりとて、それにとって変わるエネルギーがないことに閉塞感を感じているのだ。
  もし、あなたが、議員会館に足を踏み入れられたら、そこに、エネルギーがないことを感じられるはづだ。何か“気”が抜けたサイダーのような沈滞した雰囲気が充満している。とても、ここから何かが生まれてくるとは考えられない。

 しかし、私は一主権者として、このまま座して日本が沈没していくのを眺めていることはしのびないのだ。  今回の参議院選挙で企画している公開討論会は、国民自らが、日本国民の未来を考える機会にしたいと考える。

 先日、島根で公開討論会に関する講演をした際、その懇親会の席で、ある人が、「あなたは最終的に政治家になるつもりか」と聞いて来られた。その人は、政治を変えるには、傍観者としてではなく、当事者として政治の世界に身を投じるべきではないかというのだ。その時、私はこう答えた。「もし、私が立候補することで、政治が良くなるなら、今すぐにでも立候補します。しかし。政治を支える国民の意識改革なくして、どんなに声を張り上げても、結局は大きな権力の渦の中にのみ込まれてしまうでしょう。この公開討論会は、一見遠回りに見えても、最も確実に政治変動を起こす道です」と、
  その人は、私の答えで、まあ納得した様子だったが、私自身そう答えながら、「確かにそうだ。悠長に構えていられる時間はないな」という思いが頭の中をよぎっていた。

 ただ、お陰様で、今回の公開討論会の実施にあたっては、紆余曲折がありながら、何とか全国で開催できる見通しが立ってきた。18日あたりに記者会見を開き、スタートさせる予定でいる。
  東京では、候補者ではなく、党首討論会を実現させたいと思う。
  正直言って、47都道府県で公開討論会を行なう事は、私にとっては、全く身のたけをこえる大事業であり、心中恐れがないとはとても言えないが、行動のみに真実が明かされると祈っているところだ。

 回の参議院選は低調な中にも、歴史を振り返れば、必ず日本の民主主義が蘇生するターニングポイントになることを確信している。

 会員の皆様には是非、お力を賜れば幸いである。

 







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更新日 2000年11月28日