内田 豊(リンカーン・フォーラム事務局長)
2001年1月下旬に三重県の北川知事が参加したパネルディスカッションを聴講する機会がありました。石原(東京)、浅野(宮城)、橋本(高知)知事などと並び行動家・改革派として称せられる北川氏の生発言は、テレビで見るよりもはるかに歯切れよく、印象に残る内容でした。
三重県知事として2期目に入った北川氏が断行していることに行政改革と意識改革の2つがあります。
まず行政改革。
あらゆる行政計画を数値目標化できるものにし、さらに業務の見直しを行ったところ、県の仕事は全部で3200に分類できた。しかも、そのうちの275本は本来補助金が不要な事業と判明した。この結果を公開し、県民会議で検討したところ、275本の事業のうち、272本は事業そのものが不要という結論に達し、廃止とした。
また、環境優先を公約とした知事は県庁全体にISO14001(環境マネジメントシステム)を3000万円かけて導入し、環境経営を実践したところ、2億6千万円浮いた。
これらはほんの一例に過ぎませんが、これらの行政改革の成功の理由として北川知事は
1)情報公開して意思形成・決定過程をオープンにした
2)評価システム(事業評価システム・人事評価システム)を導入した
ことをを挙げました。
現在の三重県行政は完全にガラス張りだそうです。そして、事業評価システムによって仕事の目標値がはっきりしています。たとえば、この護岸整備をすることで何十年に1回の洪水が防止でき、何千万円の災害防止効果が見込め、それと引き換えに何百種類の生物が死滅するのか。
そして県民の幸せに最も貢献できた人が高く評価される仕組みに変えました。
このようにすると県庁にどのような変化が起こったか。
行政が自ら問題点を県民に公開し、県民と共に解決案を探り、行政もまた、自らを改善する仕組みになってきたそうです。
次に意識改革。
北川知事が最初に目指したのは県庁役人の意識改革。
役人に対しては、県庁は県民にとって最大のサービス産業であり、県民・納税者の立場で行政を推進するように意識転換を図る。その手段として、上記の情報公開徹底や評価システムを導入した。
たとえば水道・電気部門という、技術屋集団にISO9002(品質保証システム)を導入して業務フローを徹底的に分析した。技術屋は自分の仕事に自信を持っているので、当初は絶対に業務フローを変えようとしなかったが、評価システムの変更により、やる気が変わった。
1年間、徹底的にやったら現場自らの分析結果により、300人の職員を150人に減らすことができた。
そして、知事が本格的に目指すのは、県民の意識改革。
お上意識をもっている県民自身に県の重要課題を公表し、意思形成過程に参画させ、責任を持たせる。「決めるのは納税者であるあなた自身です」という責任感と自覚を県民にを植え付けていく。
予算を取ってくる要求型の政治家は落とせと諭す。
県民の意識改革の方は、そう簡単にはいかないが、極めて重要なことであると語っていました。
以上の話を聞いて、私は今日本に素晴らしい変革が起こりつつあると感じました。私なりにそのキーワードをまとめてみると次のようになります。
1)情報公開の徹底
情報公開を徹底するとともに、評価システムをうまく組み合わせ ると、市民オンブズマンによる行政監視は不要になります。オンブズマンがわざわざ情報公開条例を使って、行政の不正を暴こうとしなくても、行政自ら積極的に情報を公開するようになる です。
実は行政にとってもそのほうが楽なのです。
「さあ、本当の姿を公開しました。市民の皆さんはもうこの事実
を知ったのですから、どう解決するのかは市民の皆さんの責
任です。公僕である私たちは市民の皆さんの決定を粛々と遂
行するだけです。いい行政になるも、悪い行政になるも、全て
皆さん自身の選択にかかっています。」
宮城県の浅野知事や、長野県の田中知事も、情報公開と県民自身の参画を徹底的に推進していますが、身近なところでもじわじわと情報公開は進行しているようです。
例えば私が住んでいる千葉県市川市。
市川市には市民の声を大幅に取り入れた素晴らしい情報公開条例があります。しかし、市川市は情報公開条例を使うまでもなく、基本的な情報は市が自らどんどん公開しています。
市のホームページのページ数は役所NO.1だそうです。
その徹底した情報公開の背景には、三重県からそっくりそのまま導入した人事評価システムが効いていると思います。
(事業評価システムも、すでに日本の都道府県の7割〜8割が三重方式を取り入れているそうです)
2)強いリーダーシップ
北川知事の進める改革には強いリーダーシップが必要です。
リーダーは確かなメッセージと実行力を持ち、市民の幸せを最優先する視線を持ち合わせる。
そのようなリーダーが政治の場に選出されてくることが重要です。
3)有権者の自覚
自分の街の大事なことには関心を持ち、目の前の問題だけでなく将来に渡っての問題も含め、有権者自らが意思表示することが大切です。
しかし、有権者にこのような自覚を持たせていくのは並大抵のことではありません。
さて、情報公開が徹底されても、有権者は年がら年中政治のことばかり考えているわけには行きませんから、実際には政治・行政の大部分を首長や議員に付託することになります。
ですから、せめて首長や議員を選ぶ選挙のときくらいは、わが街のことを真剣に考えたいものです。
そして、有権者が自分の街に問題があることに気づき、優れたリーダーを選出しないと、三重県のような大改革は実現できません。
これらすべてを一気に促進するのが「公開討論会」です。
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公開討論会は
1.有権者が政策や人柄あるいは政党の根本方針を見極める機会
になります。
2.政治の抱える問題点や課題が鮮明になります。
3.選択の基準が明快になります。
4.政治を考える機会になります。
5.候補者が、政策や理念を有権者に訴え共感を得る機会となります。
(リンカーン・フォーラム設立趣意書から抜粋)
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一般に公開討論会というと、有権者が候補者を見きわめる点(1.)が注目されがちですが、リンカーン・フォーラムの公開討論会哲学は2.〜4.の、有権者自身が政治の問題点に気づき、学び、選択する点を重視しています。
私自身の例を挙げさせていただくならば、1997年に私が市川市長選で公開討論会を主催し、現在の市長が誕生しました。市川市長は北川知事や石原知事のようなスーパースターではありませんが、上述のようなベターな市制に結実しています。
有権者が候補者を見きわめた上での選択が間違いではなかったことを証明したことになりますが、それ以上に公開討論会は、私自身に有権者としての自覚を促してくれました。
そして有権者が自覚することの重要性に気づかせてくれました。
従来の抵抗型市民運動や、評論家型市民運動で世の中を変える事はできず、公開討論会のように有権者を自覚させる働きかけこそが、政治を動かし、世の中を変えていくのだということに気づかせてました。
私が公開討論会の開催を広く呼びかけているのは、公開討論会は主催者や参加者自身がおおいに学ぶ機会でもあるからです。その結果として、政治はダイナミックに変わっていくのです。
全国の主催者の皆様のご協力をよろしくお願いいたします。