公開討論会全般
〜公開討論会のススメ〜


98年2月28日 エポック船橋主催の講演会
リンカーン・フォーラム代表 小田全宏


  前回の衆議院選、参議院選の投票率は過去最低でした。日本では、いわゆる知的レベルの高い人ほど投票率が低いのですが、このような国は先進国の中で我が国だけです。そして、投票所に足を運ぶ人の9割が義理と人情で投票しています。私は義理と人情が悪いとは思いません。お世話になったあの人に1票を投じるということがあってもいいでしょう。しかし、せめて半分の政治家は政策で選ばれねばいけないと思います。アメリカの議員は毎日100通以上の手紙がきます。その内容は議会発言に関する賛成意見、反対意見などがほとんどです。ところが日本の議員に対する手紙は全て陳情です。この現実をみなさんはどのようにお考えになりますか?

  日本は民主主義の国です。民主主義を平たく言えば国民が主体の政治のことです。しかし、私達国民は年柄年中政治のことを考えているわけにはいきませんから、私達の代表として政治家を選出し、彼らに政治を任せます。ですから、私達がしっかりと政治家を選び出さなければ、いわゆる衆愚政治となってしまいます。現代の民主主義の元で私達国民が政治に干渉できる最適のことは、優秀な政治家を選び出すことだけなのです。

 どんな時代でも必ず投票に行くグループがいます。これは既得権益を持っている人たちです。彼らは有権者全体から見れば少数派ですが、投票率が30%や40%といった極端に低い場合には選挙結果に大きな影響力を持ちます。したがって、投票率が高まらない限り、政治がよくなることはありえません。ただし、単に投票率が高いだけでなく、政治家が政策で選ばれることが重要です。

  イギリスで国会議員になるための選挙費用は約150万円です。これは法律で定められています。(日本では数千万〜数億円と言われています)。そしてイギリスの選挙では各地域で公開討論会が開催され、最も良い議論をした人が党の候補になります。そしてこの政党を代表した候補者たちによる公開討論会が何度も行われ、投票の判断材料になるのです。あのマーガレット・サッチャーさんも最初は一介の政党員に過ぎませんでしたが、そのような討論会を通じて信頼を得ていきました。イギリスの政治家には地盤も看板もかばんさえも必要無いからこそ、政策論争が重要視されるのです。

 日本の政治も、アメリカやイギリスの良い点を学び、国民が良い政治家を生み出すための仕組みと、投票への関心を高める工夫が必要です。それには、政策公開討論会が最適の手段だと私は考えます。日本の選挙にもかつては立会演説会という公開討論の場がありました。しかし、一部の宗教・政治団体等が聴衆を大量動員して気勢を上げ、自党の候補者の演説が終わるとドッと退場するということが各地で起こったため、昭和58年に廃止されました。その後、駅頭の街宣と政見放送以外はダメ、ということになってしまいました。そして一般市民が候補者を集めて行う公開討論会は選挙の事前運動とみなされ、多くの討論会の企画が、開催できぬまま終わりました。そこで私は事前運動とみなされない公平で中立な公開討論会の運営方法を考え、公開討論会を開催したいと願う全国の市民にその方法をアドバイスする「リンカーン・フォーラム」というプロジェクトを推進してきました。ここ2年間で京都市長選、名古屋市長選、船橋市長選、市川市長選、宮城県知事選、長崎県知事選など12回の公開討論会開催を支援し、いずれも大きな反響を呼びました。

 公開討論会を成功させるには多くのノウハウがあり、そのひとつに「主催者(代表)の条件」があります。代表は、1)どの候補者からも中立、2)1ヶ月間討論会に集中できる、3)人間的に信頼され、主体的に討論会に取り組める という条件を満たしている必要があります。また、この討論会を通じて「政治家に点数をつける」「市民派候補を擁立する」というような姿勢があるとうまくいきません。公開討論会は、それに参加する市民が学ぶ場でもあるという姿勢を持つことが大切です。さらに、アメリカの大統領選のような激しいディベートを期待する聴衆も多いのですが、ディベートを企画すると現職が必ずといっていいほど参加しないのでその企画はつぶれます。日本にはまだまだディベートの文化が育っていないからなのですが、リンカーン・フォーラム方式の公開討論会を通じて、一歩ずつ突っ込んだ討論できる方向になってきたことが分ります。まだ数年はディベートは厳しいですが、討論会に参加した8割以上の人は十分満足してくれます。生で見れば、ディベートをしなくてもかなりの違いが分かるからです。討論会で候補者が演説した内容は翌朝の新聞に一斉に掲載されますが、全候補者の扱う量が同じなので、新聞では違いがわかりにくいです。これが公開討論会に参加する魅力なのです。

 今年3月に実施した長崎知事選の公開討論会では1500人の会場に1900人が押しかけました。また、討論会の模様がTVでも2時間枠で3回も放送され、いかに国民が公開討論会を望んでいるかが分ります。そしてリンカーン・フォーラムでは今年の参議院選で、全国すべての都道府県で公開討論会を開催しようと準備を進めています。すでに35県で代表が決まりました。あなたもぜひ、公開討論会の開催してみませんか。

(記録:内田 豊)
 







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更新日 2000年11月28日