市川市長選公開討論会
〜市川市長選「公開討論会」大成功の秘訣〜


内田豊 


  市川市内の市民グループで組織する「市長候補を知りたい!公開討論会を実現する会」は、11月15日(土)、市川市民会館で、11月30日投票の市川市長選出馬予定者5人に政策・公約を聞く公開討論会を開催しました。

 この討論会は「前回の市長選投票率は28%で7割以上の人が投票しなかったが、これは『市長を選ぶ判断材料が少なかったから投票に行かなかった』という人が多いはず。今回は立候補予定者が多くこれまで以上に判断が難しくなる。判断材料の提供によって有権者の関心を引き、投票率を高めたい」という企画の元に、市内の市民団体がそれぞれの利害を超えて結集し、実現の運びとなりました。

 この日は会場の定員(156名)を大幅に上回る350名以上の市民が訪れ、超満員。市民は市政に関心が無いのではなく、適切な情報を必要としているのだという同会の主張を裏付ける結果となりました。

 1.市民主催の公開討論会とは <AERA(97.10.20)から引用>

 1983年までは選挙の際に立候補者が一堂に会して政見を表明し、有権者がそれを比較、判断する「立会演説会」があった。しかし、一部の宗教・政治団体が聴衆を大量動員して気勢を上げ、自党の候補者の演説が終わるとドッと退場することが各地で起り、「これでは立会演説会の意味が無い」ということがきっかけとなり、廃止されたのだそうです。しかし、そもそも有権者が候補者を呼んで政策を聞いたり質問したりしたいのは当然なので、2年ほど前から、各地で市民団体が主催する私設の公開討論会が開かれだした。昨年2月の京都市長選を皮切りに、昨年10月の衆議院選挙・埼玉11区、今年は4月の名古屋市長選、6月の船橋市長選(BT7月号に詳報)、10月の鎌倉市長選で公開討論会が開催された。

 2.市川市長選公開討論会の討論スタイル

 各候補者にそれぞれの政策・公約を10分ずつ発表してもらいました。続けて会場から寄せられた質問用紙に沿って、全員共通の質問と各候補者への個別質問を、コーディネーターを通じて行いました。共通質問では「外環道路問題への取り組み」「市の財政難への具体的な再建策」「地方債残高の早期償還方法」が質問されました。

 3.成功の秘訣

 回の討論会は、超満員の会場に入りきれずに会場外で立ち聞きする方も出るほどの参加者を集めたほか、討論終了後のアンケート(回収枚数97枚、回収率約33%)でも、78%の方が「良かった」「大変良かった」と答えており、初めての企画としては大成功であったと言っても良いと思います。そこで、今後各地で「公開討論会」を企画しようという方のために、私たちが今回の経験を通じて学んだことをまとめます。 

(1)「実施マニュアル」にしたがえば、難しくない

 全国に公開討論会開催を推進・支援している「リンカーン・フォーラム」は「公開政策討論会実施マニュアル」を配布し、公平・中立な運営の方法や会場確保、費用などのノウハウをキメ細かにアドバイスしています。このマニュアルにしたがえば、学生でも主婦でも、何の知識も無い一般市民が討論会を開催することは難しくありません。

(2)とにかく候補者(とくに現職)に出席してもらうこと

 公開討論会を成功させる最大のポイントは現職首長に参加してもらうことです。現職が参加しないと、他の候補者からも「参加する意味が無い」と断られる事があるばかりか、市民への討論会主催の協力呼びかけ時に「反現職と思われると今後の市民活動に不利だ」と協力してもらえないこともあります。候補者に参加してもらうためには後述の(3)〜(5)の実施が重要ですが、特にマスコミに後押ししてもらうのがポイントです。なお、市川市長選の場合は、5期続いた現職が引退し、全候補者が新人であったことは幸運でした。

(3)マスコミを有効に使う

  船橋市長選の場合は、新聞が「候補者が公開討論会に参加しようとしない」と報道したことが、参加を渋っていた候補者が参加することへの強力な後押しとなったようです。 また、マスコミの宣伝力は強力です。アンケートによると、市川の場合、36%の方が「新聞で知った」と回答し、「知人から聞いた」の42%に次ぐ宣伝効果でした。(今回は10月31日に記者会見を行いました。その結果、討論会前に、全国紙で「読売新聞」、地元紙で「市川よみうり」「市川ジャーナル」に報道されました。また、討論会当日の内容は「朝日」「毎日」「市川よみうり」「市川ジャーナル」に報道されています。注:知った範囲で)

(4)徹底的に公平・中立であること

  候補者に安心して参加してもらうためには、主催者が徹底的に中立であることが必要です。市川の場合、市民に関心の高い問題として「外環道路建設」「三番瀬埋立て」という、公共事業と環境問題が対立する難しい課題があり、反対、あるいは賛成のどちらかに偏ったグループが主催する討論会だと、キナ臭い内容のものになってしまいます。その点、今回の討論会は、それぞれの問題に反対や賛成の立場で活動している市民団体がお互いの立場を超えて、「公開討論会を実現する」ために結束しました。それぞれの団体の主張は新市長が誕生してから各団体毎に活動しよう、今回は公平中立を保とうということで固い絆ができました。これはとても良い効果を生んだと思います。

 また、公平・中立を貫き、かつ素人判断で選挙違反にもならないようにするため、事前に選挙管理委員会と警察に全情報を公開し、アドバイスを受けておくことが大切です。選挙管理委員会はその立場上、私設の公開討論会を”公認”してはくれませんが、概ね好意的に扱ってくれます。また、選管や警察に話を通じていることが大きな信頼につながります。私は自分のマンションに討論会のポスターを貼ろうとしたら、管理組合から「主催団体が中立かどうかわからない」と待ったをかけられました。この時も、選管に中立であることを確認してもらっていたことで、管理組合の理解を得られまし た。

(5)討論会のスタイルに一工夫

 討論会には様々な形態があり、一部には候補者同士のディベートを期待する向きもあるようですが、議論になれていない日本人がディベートをするのはかなり困難です。候補者は自由にしゃべりたい、参加者は自由に質問したいという欲求を限られた時間内で実現するにはかなりの工夫が必要となります。6月に開催された船橋市長選の場合、あらかじめ決められた質問を候補者に一問一答で答えてもらう形式でした。このスタイルだと、会場の質問者が妨害質問をするようなリスクを避けられるのですが、どうしても上記の両者の欲求が満たされず、盛り上がりにかけます。そこで市川市の場合は、公約・政策は候補者に自由に述べてもらい、会場からの質問は質問用紙で受付け、その中からスタッフが選定したものをコーディネーターが質問する、というスタイルをとりました。候補者に自由に演説させたにもかかわらず、野次や罵声、演説妨害は小さな罵声が1回のみで、300人の聴衆は候補者の熱弁を静かに聞き入っていました。市川でこれだけ参加者が冷静であったことは、今後の討論会を企画する上で、より自由度の高いスタイルに踏み込むことも可能であることが確認できたのではないかと思います。

(6)女性の行動力

 今回の企画を進行するにあたり、クチコミでの仲間集め、選管・警察・選挙事務所・マスコミまわり、案内ビラの印刷と配布、公開質問状の作成、討論会会場の裏方など、女性(主婦)の行動力は絶大でした。船橋市の討論会も、(残念ながら実現できなかった)千葉市の討論会も主役は女性でした。女性が政治に関わることは、某宗教団体の選挙活動の主体が女性であるためか、一般的に疎んじられることが多いようですが、そのような視点で女性を見るのはまちがいです。


  4.新しい市民参画のスタイル

 政治改革を志す市民団体はおおむね、「サイレントマジョリティのままでいてはいけない。自分でできる政治への参画をしよう」と集まり、その参画のスタイルを色々と模索してきたと思います。そして、その様々な活動の過程で「今の現状の真実を一般の市民に気付いてもらわねば政治改革は実現できない」ということを学んできたはずです。今回の公開討論会主催という企画は、市民に政治参画の機会を与えると同時に、身近な政治の問題点に気付いてもらう絶好の場です。これは、政治への新しい市民参画のスタイルであり、政治へアプローチする市民活動も、この方向にひとつの活路を見出せるのではないかと考えます。

 なお、この原稿は11月23日現在のものです。11月30日の投票では投票率がせめて35%、あわよくば40%を超えることを期待します。

  ※11月30日の投票率は34.82%となり、前回より6.89ポイント増加した。







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更新日 2000年11月28日