宮城県知事選公開討論会
〜宮城県知事選管の本末転倒〜

AERA(1997年10月20号)から転載
編集部 田岡俊次

立候補予定者を市民団体が招く討論会が盛んだ。
だが宮城県では、事前運動の恐れも、と中止になった。


  選挙の際、立候補者が一堂に会して政見を表明、有権者がそれを比較し、判断する「立会演説会」が公職選挙法の改正で廃止されたのは1983年だった。それ以降、選挙戦はひたすら車で走りまわって名前を叫んだり、支持団体に利益誘導まがいの「お願い」をする愚劣な行動となってしまった。

  本来望ましい選挙運動の形である立会演説会が廃止になったのは、当時、一部の宗教・政治団体が聴衆を大量動員して気勢を上げ、自党の候補者の演説が終わるとドッと退場することが各地で起こり、他の政党から、「立会演説会の意味がない」と苦情が噴き出したためだ。もともと名の売れた現職の候補者のとっては、新人と対等に論戦する立会演説会はうれしいものではなかった。「大量動員問題」は廃止の絶好の口実ともなった

  だがそもそも公開討論会は民主主義の基本であり、有権者が候補者を呼んで政策を聞いたり、質問したいのは当然だ。このため、最近各地で市民団体が主催し、選挙告示前に立候補社を招く私設の立会演説会が開かれだした。

 昨年2月の京都市長選挙、10月の衆議院選挙・埼玉11区、ことしは4月の名古屋市長選挙、6月の千葉県船橋市長選挙、10月19日投票の鎌倉市長選挙の前に、こうした公開討論会が地元のボランティア団体や学生を中心に開かれた。京都市、名古屋市ではそれぞれ3人の候補者全員が顔をそろえた。衆院埼玉11区では自民の現職候補は出席しなかったが当選、船橋市では候補者3人中、現職市長が出席せず、落選した。鎌倉市でも10月7日の討論会に予定者が2人とも出席した。

 実施マニュアルも

 ところが、10月9日告示の宮城県知事選を前に「知事候補予定者を知る97宮城県民実行委員会」(藤田和久代表)が6日に公開討論会を企画し、浅野史郎知事(無党派)も出席の意向を示していたところ、同県選挙管理委員会が、「事前運動になる疑いもある」と警告したため、浅野知事と市川一朗氏(自民・新進・公明推薦)は出席を見合わせることになった。共産党推薦の高橋浩太郎氏の独演会になっては意味がないため、企画は中断に追い込まれた。

 全国的に公開討論会開催を推進しようとしているのは東京・青山に事務所を置く、「地球市民会議」代表の小田全宏氏や東洋大学法学部の樋口美智子助教授(国際政治)らが作った「リンカーン・フォーラム」。同大統領が言った「人民の、人民による、人民のための政治」に日本の政治を近づけるため、立会演説会の復活を考えた、という。このフォーラムは「公開政策討論会実施マニュアル」を作って市民団体に配布し、公正、中立的な運営の方法、会場確保、費用などについて勧告してきた。

 校則並み「べからず集」

 宮城県以外の選管は好意的で、「結構なこと。ご苦労様です。事前運動と間違われないよう、こういう点には注意して下さい」と親切な指導をしてくれるところが多かったという。宮城県選管の反応について、自治省では、「知事が出席するというので、県選管としては、万一口が滑って投票依頼のような発言が出ては困る、と慎重になったのではないか」との見方もある。

  自治省選挙課長の大竹邦実(おおたけくにみ)選挙課長は、「告示前でも政治活動は自由で、立候補予定者に集まってもらって話を聞こう、という気持ちもよく分かる。選挙運動とは投票を得、もしくは特定の候補者の当選を得さしめるための行為で、そうでなければ政治活動だ。現職が実績を語ったり、他の人々が批判しても客観的事実の表明である限りはかまわない。ただ公開討論会も将来悪用される心配はある」と言う。日本の選挙法は世界でもっとも規制の多い「べからず集」だ。校則と同様、規制はさらに細かい規制を生み、本来の目的に反することになりがちだ。
 







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更新日 2000年11月28日