参議院選
〜公開討論会奮戦記〜


GCFレポート巻頭言(98年7月号掲載)
リンカーン・フォーラム代表  小田全宏



  このGCFレポートが皆さんのお手元に届く時は、丁度参議院選挙の結果が出た時だろうと思う。はたして、史上最低の投票率と言われながら、どんな結果が出てくるだろう。私たち地球市民会議が推進してきた公開討論会と合同個人演説会は、この参議院選では大いに世間の耳目を集めることになった。

 会員の方々には、このGCFレポートを通じて、この2年間、様々な提言をして来たので、その流れは充分ご存じだと思うが、世間的には、この公開討論会の試みが、今回の参議院選で、彗星のように現われてきた様に映った様だ。今回の参議院選の焦点は、勿論景気対策が第一だが、その裏に流れていたのは、低投票率に対する危機感である。さすがに、国政で50%の投票率をきり、30%台に入ろうかとするのだから、まさに民主主義の根本からすでにずれている。大体組織票と呼ばれるものが有権者の3割あるのだがら、自らの意志に基づいて投票した人は、前回の参議院選挙では10%足らずだったということになる。無党派などという言葉があたり前のようにして使われるが、無党派なる人々はこの世の中に存在しない。あえて無党派と呼ぶなら、投票所に足を運び、"白票"を投じた人たちであろう。投票に行かない人たちはどんな理由であれ、主権者としての権利と義務を放棄してしまっているのである。

 今回の参議院選がこの投票率の低さに関心が集まったために、皮肉なことに、我々の活動が注目されたのだ。5月12日の産経新聞の記事を皮切りに、連日様々なメディアに取り上げられた。最盛期には、一日10社近くの取材申込があり、その対応に大わらわだった。結局6月16日の日比谷公会堂での各党代表者討論会を初めとして、合同26ケ所でこの公開討論会が実現した。

 記者の方から毎回聞かれたのは、「なぜこの公開討論会を始めたのですか」「今回の現状は」「これからの展望は」ということが中心だったが、今回のこの試みについての簡素をのべてみたいと思う。

 まづ良かった事は、今回で、公開討論会が全国的に認知されたことがあげられる。今日までは、各地で独自に行っていたために、孤軍奮闘のところがあったが、今回は全国でネットワークを生かして進められたために、選挙管理委員会の壁はわり合にスムーズに突破できた。そして、この2年間の蓄積された経験をもとに、入念な事前研修会を行ったために、実行された方々の不安も随分と軽減されていたのではなかろうか。そして今回、驚いた事は、各地でのマスコミの予想以上の好反応である。どこも今までの試みをはるかに超える記事が出され、1ケ所で20回を数えたところも少なくない。とにもかくにも、これで、次回の統一地方選挙、衆議院選挙に向けて、その基礎ができたことは最も嬉しいことであった。

 しかし、やはり残された課題も少なくなかった。マスコミの反応とは対照的に、今回会場に足を運んだ人は予想以上に少なかった。今までの公開討論会では500人、1000人、2000人とたくさんの人がつめかけたが、今回は平均して250人から300人くらいだった。多くて500名、少ないところでは、50名ということろもあった。やはり、参議院選そのものに対する根本的な無関心は否めなかった。

 第2は、やはり候補の方へのアプローチである。日比谷公会堂での討論会を始め、保守系の現職の方が参加をしぶるケースがまま見られた。やはり討論会というと、現職がチャレンジャーによってコテンパンにやられるというイメージが強くて、いくら我々が"公平""中立"を柱としても、中々理解してもらうのは難しかった。第3は、やはり法的な問題である。選挙が公示される前は、基本的に我々の会が主催するのだが、公示後は、立前として候補者同志が開催する合同個人演説会の形をとることになる。そうすると、これを公示前に宣伝することはできない。神奈川県では、公示の25日の3日後の28日に開催されたものの有権者に対する宣伝が全くできず、千人の会場に50人しか集まらなかったは無念であった。さりながら、今回の全国での公開討論会は、全く名もない市民が立ち上がって行われたもので、すべての選挙区で数々のドラマがあった。ほとんどの人が政治には、全くの素人であったが、一つ一つ道をもって進む中で壁を突破していった。

 その中の一つが、東京で行われた「参議選に向けて政党代表者による政策討論会」である。これは6月16日、日比谷公会堂に各党の代表者が集まり、各党の政策を訴えた歴史上初めての会であり、大きな反響をよんだが、これを実行したのは、小川理子さんという一人の女性を中心とした市民グループである。彼女は東京青年会議所のメンバーで、私の活動にも協力してもらっていたが、いろいろな経緯から彼女が東京の代表をすることになったのだ。彼女はアクセサリーの卸の会社の経営していたが、政治とは全く無縁であった。ただ今回の選挙において、各党の政策を知りたいという一念から各党の党首に参加をお願いに行ったのだ。テレビでは、各党の党首が一堂に会し議論することは珍しくないが、有権者の前で党の代表者が議論したことはかつて一度もない。ましてや、主催が一市民グループとなると、各党とも二の足を踏むのはもっともである。各党とも模様眺めの状態となった。私も知恵をふりしぼり、各党の事務局の方々に今回の企画が、いかに公平中立で意義あるものであるかを根気強く説いて回った。

 小川さんのねばりで、次第に各党とも納得してくださり、全党、党首ととも納得してくださり、全党、党首と幹事長においでいただくことになった。結局、開催日の前日、自民党の加藤幹事長が欠席をマスコミに発表されたため、野党のみの政策討論会となった。自民党の出席が得られなかったのは非常に残念であったが、各党の代表者の方々の政策の違いは明瞭であった。登壇されたのは、自由党の野田幹事長、民主党の鳩山由紀夫幹事長代理、共産党の不破委員長、社民党の伊藤幹事長、さきがけの武村代表、公明の続政策審議会長の6名である。テーマは経済政策と税制、福祉、安全保障の三つを軸に、各党とも今回の参議院選で最も国民に訴えていきたいことを伝えてもらった。

 私たちは、不毛な揚げ足とりの議論になることは極力避け、骨太の政策を訴えてもらった。2時間半という長丁場であったが、会場にこられた人たちは、最後まで真剣に耳を傾けておられた。60名を越すプレスがかけつけ、この討論の様子を全国に発信してくれた。開催にこぎつけるのには、かなりの困難があったが、結果はまずまずの成功だったと思う。これは会場にこられた方々はもとより、登壇された各党の代表者の方が喜ばれ、討論会の意義を理解してくださったのは、大きかった。

 この東京での討論会を皮切りに全国で、公開討論会、合同個人演説会が次々に開催されたのだった。
  私たちの活動はささやかなものではある。しかし間違いなく政治の地殻変動が起きて入る。時を同じくして、作家の石川好さんや作曲家の三枝成彰さんらの有識者たちが「選挙に行こう勢キャンペーン」を始められた。これから私たちとスクラムを組んでやっていけると思う。一票の力は小さい。しかし、その一票の集積が政治を動かしていくのである。

 最後に、かつて、マザー・テレサが心ない記者から「あなたは4万人の人たちを救ったというが、それで世界平和がくるか?」とつめ寄られたときに答えた言葉をお伝えして、本稿を閉じたいと思う。

 「私たちの活動は大海の一滴の水のごとくささやかなものです。でもその一滴がなければ大河も大海もありません。私一人の力で世界の平和をもたらすことは不可能なことでしょう。私にとって大切なことは、いま目の前にいる人とどう真剣にかかわれるかです」

 あなたの一票こそ政治を変えるのである。







Copyright(C) Lincoln Forum. All rights reserved.
更新日 2000年11月28日