参議院選
〜ターニングポイント 参議院選が日本の民主主義の曲がり角になる〜


GCFレポート巻頭言(98年6月号掲載)
リンカーン・フォーラム代表  小田全宏



  今年の参議院選挙の投票日が7月12日に決定した。当初噂されたダブル選挙の可能性はほぼ消滅し、参議院選が単独で行われる可能性が高い。日本は長引く不況にあえぎ、タイタニック同様沈没寸前だというのに、国民の政治に対する関心は驚くほど低い。前回の参議院選挙は44%と史上最低の投票率を記録したが、今回はそれをさらに数ポイントも低下することになりそうだ。もし今回の投票率が30%台に落ち込んだら、はたして参議院の存在そのものが問われていると思うがいがだろうか。

 低投票率に対しては、無党派の増大が指摘されるが、無党派はいまや無関心派、無感覚派へと移行している。およそ政治不信は、4段階のレベルを経て国民の中に染み込んでいくと政治学で言われている。

 第1段階は、特定の個人に対する不信である。ある特定の政治家が汚職を働いたり、倫理に背く行動をした時におこる国民の怒りである。この時は一時的に国民の興奮は高まるが、その政党の中でも自浄作用が働き、やがて国民の政治不信は解決する。例えば金脈問題でたたかれた田中角栄に対して、自民党の中にクリーンさを掲げた三木武夫が存在しているという構図である。

 第2段階は、特定の政党に対する不信である。自民党が倒れた時、金丸副総裁の金満ぶりが自民党全体の腐敗と一体とみなされ、自民党の一党支配は終焉を迎えた。

 しかし、まだこの段階では、国民の意識の中に、政権交替に対する希望は存在している。
 第3階に入ると、政党そのものに対する不信の段階に入る。自民党が倒れた時、国民は細川首相を歓喜の声で迎えた。これで何かが変わると淡い期待を持ったのだ。しかし、現実は無残な結果を見せつけられた。期待が大きかった分、国民の失望は大きかった。細川内閣が瓦解し、あっと驚く社民党政権の誕生を経て、国民は政党そのものに対する信頼を失った。

  そして第4段階は政治そのものに対するあきらめである。かつては「政治は三流だが、官僚がしっかりしているから日本は大丈夫」と言われた。しかしこの数年官僚の不祥事が次々に明るみに出て、国民は権力構造すべてに不信を抱いている。つまりもはや国民にとっては、何に怒りを向けていいか、またどこに希望を持っていいかすら分からない状況になっている。そなわち、今の国民の政治不信と日本新党ができた当時の政治不信は全くその深刻さの度合いは格段に違うのだ。

 今の政治に対する表立った国民の怒りが爆発していない分、その病巣はより深くなっているのだ。
 実は、今回の参議院選の最大の焦点が、他でもないこの"低投票率"にあることは、日本の民主主義の未来を占う意味でも極めて示唆的である。

  今月の入り、ぞくぞくとマスコミからの問い合わせが相次ぎ、取材攻勢を受けているが、どの記者の方々も口をそろえて言うのは、どうしたらこの低投票率を向上させることができるかというポイントである。
 もちろん投票率そのものが国民の政治的成熟度を示すとは言えないが、一つの指標にはなろう。全く投票率が上がる効果的な方策がない中で、このリンカーン・フォーラムが推し進めている公開討論会が、にわかに注目されだし来たのである。

  今、全国で各県の代表者が懸命に活動を展開している。無論私、東京での討論会の開催のために奔走している。
 東京では、各候補者の討論会もさることながら、主要政党の代表者による公開討論会を企画している。

 これは私たちの仲間(友の会会員)で東京JCの会員でもある小川理子さんが代表となって「政党の政策を知る国民の会」を発足させた。開催日は6月16日(火)PM6:00から9:00で、場所は日比谷公会堂で開かれる。おそらく、各政党の代表者が公開で討論するというのは、日本の憲政史上初めてのことであろう。それだけ意義深いことであるのだが、やはり初めてことで各党とも対応は決して芳しいものではなかった。どの党がどのような対応をしたかということはさし控えるが、出席者の確定に至るまでは難渋を極めた。

 しかし、ねばり強く交渉した結果、自民党の加藤幹事長を始め各党とも党首か党の役員の方が出席していただけることになった。
 出席者が7名にも及ぶため、激しい論戦というわけにはいかないだろうが、少なくとも各党とも万全の構えで、自党の政策を有権者の方に訴えることだろう。

  地球市民会議の会員の方々は、是非ご参加いただければ幸いである。
 今回の参議院選が日本の民主主義の夜明けを告げる黎明の時となることを心から念願している。
 







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更新日 2000年11月28日