参議院選
選挙の活性化 「立会演説会」復活を


AERA(1998年6月15日号)から転載
編集部 田岡俊次


かつて選挙といえば、立会演説会が勝負どころだった。
それが消えた今、自主的に開こうとする人たちがいる。
 


  参院議員選挙の投票率は、3年前で約44%。7月の選挙では40%を切る心配も出ている。
  「無味乾燥なNHKの政見放送しか候補者の政見を聞く機会がないのでは、有権者が選挙に興味を失うのも無理はない。支持団体の会合で『男にして下さい』と頼んだり、車で走り回って叫んだりするだけの今の選挙活動が、投票率低下の一因ですよ」と東京・赤坂の「地球市民会議」の代表、小田全宏氏は言う。

  地球市民会議は今回の参院選で、候補者に呼びかけて各地で合同個人演説会を開く計画を進めている。すでに愛媛を除く46都道府県に、地元有志の実行委員会が作られた。東京では6月16日、日比谷公会堂で、各党の党首か政策担当幹部を招いた討論会が開かれる。

  政見を聞き比べる権利

 1983年の公職選挙法改正までは、候補者が一堂に会して政見を表明する「立会演説会」が開かれていた。だが、一部の宗教・政治団体が聴衆を大量動員し、自党の候補者の演説が終わると一斉に退場する事態が各地で起き、「立会演説会の意味がない」と他の候補者から苦情が続出し、廃止された。
  公開討論会は民主主義の基本。候補者の意見を聞き比べて判断するのは、本来、有権者の権利のはずだ。
  地球市民会議とそのプロジェクトチーム「リンカーン・フォーラム」は96年の京都市長選以来、合同演説会開催を呼びかけ、地元有志の実行委員会にノウハウを伝えてきた。これまで宮城や長崎の県知事選、宮城、埼玉の衆院補選、名古屋、神戸の市長選など約20回の選挙で、こうした討論会が開かれた。

 参院選の次は衆院選も

 公選法164条の3では、「選挙運動のためにする演説会は、この法律の規定により行う個人演説会、政党演説会及び政党等演説会を除くほか、いかなる名義をもってするを問わず、開催することができない」
 
と定めているが、自治省選挙課の山本信一郎課長は、
  「候補者同士が合意し、合同で個人演説会を開くなら問題はない。選挙前でも、一般的な政治討論会なら事前運動に当たらない。ただ、投票依頼のようなことを言わないように注意してほしい。」と言う。

  日比谷公会堂での各党代表者の政策討論会を企画している「政党の政策を知る国民の会」の代表は、東京都世田谷区で装飾品卸商を経営する小川理子(おがわまさこ)さん(39)だ。「よろしくお願いしますと頼まれるだけで、政策の違いが分からず、投票に行くたびにもどかしさを感じていた。2、3年前、小田さんらのグループの活動を知った」 と言う。

 5月初めから各党に参加を説いてまわったが、すぐに党首が出る、と返事したのは、さきがけの武村正義代表だけ。自民党の橋本龍太郎総裁は首相としての公務の予定が決まらず、  「だめなら政策担当を出す」  という返事だった。社民党の土井たか子党首は予定が詰まっているとして欠席。他の党は、  「よそが党首を出すなら、うちも」  と答え、共産党までもが「政党の横ならび体質」を示したという。

 昔の立会演説会のような大量動員を避けるため、2,000枚の整理券を発行して、最大100枚ずつを各党に分配。300枚は政治学専攻の大学生のネットワークを通じて配り、約1,000枚は6月10日必着の同会事務局宛ての往復はがきで申し込んだ人に抽選で配る。

  「拍手は発言が終わったときだけ、ヤジを飛ばした人は退場してもらう、など公平さの確保に努力している。参院選の討論会がうまくいけば、次の衆院選では300選挙区で実現したい」  と小田全宏氏は意欲を燃やす。

「政党の政策を知る国民の会」
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更新日 2000年11月28日