参議院選
参議院選挙で政治がかわる


GCFレポート巻頭言(98年4月号掲載)
リンカーン・フォーラム代表 小田全宏


 今年7月12日、参議院選挙の投票日である。本来なら、新民主党が誕生し、少しは盛り上がりも期待されるが、先日の3月29日の東京4区の補選を見ている限りは、あまり希みを持てない。  今日の補選は、新井将敬氏の死を受けて、自民党から森田健作氏と民友連から松原仁氏が出馬したが、史上最低の投票率を記録した。
  衆議院の補選と、参議院の本戦を同列には論じられないが、今回の選挙を見る限り、新民主党の風はふかなかったようだ。 前回の衆議院選挙も参議院選挙も史上最低の投票率を記録したが、なぜかくも投票率は下がり続けるのであろうか。

 日本では、知事選や市長選などで、40%、30%、20%と、ひどい投票率が頻繁に表れるが、こんなことは、欧米先進国では考えられないことだ。今の日本の選挙はほとんど民主主義と呼べる様な代物ではない。
 しかし、冷静に考えると、投票率が下がるのは、まことに当たり前のことだと合点がいく。
実は、一個人が投票に行くかどうかは、簡単な数式によってあらわせる。

 仮に、その人間の一票によって、選挙に与える影響力をA、そしての人間が得られる利権をB、選挙を行なう満足感がC、そして選挙に行くコストをDとすると、
A×B+C−Dが0よりも大きい場合、人は選挙に行き、0より小さい場合、選挙には行かないということになる。

 例えば、これを一つ一つ見ていくと良く分かる。Aが上がる時というのは、候補者同士が接戦の時であり、確かに初めから勝負が決まっている様な選挙の投票率は落ちるといえる。

 ところが、仮に接戦であっても、どちらの候補が勝っても、何の利益も自分にもたらされないという時は、投票率は決して上がらない。それこそ、東京4区は、森田氏と松原氏の接戦といわれたが、有権者は、「どちらに投票しても、何も変わらんわい」ということで、38%という低投票率になった。例えば、消費税や、かつての安保の時のように、重点がはっきりしている時は、上がるが、争点がなく、かりに争点があっても、国民生活の動向とは、何の関係もない時、投票率は低迷するのである。

 次にCであるが、たとえば、このCが上がるということは、政治参加に対する満足感であるから、政治に対する信頼が高い時には高くなる。また地域の特性として、選挙に行くことが不文律になっている所は、投票率は高い、反対に、政治に信頼が失われ、都市のように、地域としての投票圧力のない地域や、あるいは地方でも、人々の意識が都会に向かい、単なるベッドタウンと化している地域の投票率は低い。

 さて、次に投票率にいくコストだが、投票日、特にどこかに出かける用事もなく、投票所も近く、晴れていれば、体が健康なら、投票のコストは低くなる。ところが、投票日、どこかに出かける用事があったり、雨が降っていたり、投票所が遠かったり、体の具合が悪かったりしたら、この投票コストは高くなる。

 さて、現状を見ると、低投票率の理由がはっきり見えて来る。小選挙区制や二大政党制を標榜したとしても、実際は自民党の一人勝ちであるし、特に他方の首長選挙を見ると、共産党意外の全党が相乗りの候補がほとんどで、選挙する前から答えが出ている事が少なくない。

 次にBについて言えば、各政党や候補者の公約や理念や政策が全く不明確で、聞いている方には、一向に違いが見えてこない。「誰がやっても政治は変わらない」という意識は、民主主義の原点を限りなく踏みはずしていく。

 さらにCであるが、地域の共同体がこわれ、政治に対する信頼がなくなると、人々は政治にそっぽを向き、選挙にいかなくても何ら、心の痛痒を感じない。そして、魅力のない政党や候補に一票を投じても、内的満足は得られない。マスコミが「この投票率は、国民野怒りの表われですね」などと選挙の度に言えば言うほど、投票率は下がっていくのえある。

 さて、Dのコストであるが、晴れた日曜日は、家庭で遊びに行きたいと思うものである。かつてのように娯楽のない時代にならいざしらず、夕方6時までに帰って来いという方が、無理がる。もし仮に投票日用事があり、不在者投票をしようとすると、いろいろ根ほりはほり聞かれて、わずらわしいことこの上ない。  と考えて見ると、今の時代は、投票率が上がりようがないのだ。
  どんなに、“選挙に行きましょう”“投票率を上げましょう”と念仏のように叫んでも、この数式がある限り、全く無意味である。

  ではどうすればよいか。いささか我田引水になるが、公開討論会が全国にひろがることである。今までの経験を待つまでもなく、公開討論会を行なうと、各政党は各候補のビジョンや政策が明確になると同時に、有権者の方々の参加意識は格段に向上する。少なくとも、今までのデータを見ると、公開討論会を行なった地域は前回に比べて、投票率は確実に向上している。

  新民主党に風がふかないのは、寄り合い所帯で、明確なビジョンや旗を掲げられないから他ならない。残念ながら、“菅直人”という個人の人気だけで、選挙を勝てる程、政治は甘くない。日本が今日のように、瀕死の状態の時に、権力争いをしていて、国民に顔を向けさせることは、不可能なのである。

 参議院選挙において、ようやく47都道府県すべてで、公開討論会を実現させる見通しができた。この2ヶ月間ほど、その準備にかかりっきりであったが、縁が縁を結び、ようやく全県実施の舞台は整った。
  これから、あらゆる方法を駆使して、この公開討論会を全国に広げていきたい。
  今度の選挙は、どの政党が勝つか、負けるかということではなく、本当の意味での、国民主権が樹立する瞬間になりたいと思う。

 混沌とした日本の未来を、国民が見定める重要な時にしなければならない。
  “夜があけるのを待って、太陽が昇るのではない。太陽が昇るから夜が明けるのだ。”

 あなたのご参加を心から念願している。

 







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更新日 2000年11月28日