4.当日の運営マニュアル

 

 

 

  当日の運営マニュアル

 

 候補者が確定し、有権者の参加の目処がついたら、あとは運を天に任せて当日全力であたるより他はない。当日の運営については限りなく手を抜こうと思えばいくらでもできる。しかしできるなら候補者にとっても有権者にとっても満足いく討論会にしたい。ここでは最善を尽くした場合の運営マニュアルを提示したい。以下当日必要な役割分担を述べたい。
  1、 受け付け
  2、 候補者の接待
  3、 司会
  4、 会場整理係り
  5、 駐車場整理
  6、 タイムキーパー
  7、 伝令
  8、 記録係り
  9、 音響
  10、 アンケートの回収及びカンパのお願い
  大体以上が当日の仕事であるがひとつひとつ重要な注意点を申し上げたい。

 

 1、受け付け

 受付の仕事はスムーズに参加者を会場に入れることにつきる。受付の人数は会場の大きさや整理券の確認をするかどうかということによっても変わるが5人以上はいたほうがよいだろう。その中で、もし金銭の受け渡しがある場合は、その責任者を決めておいた方が良い。それからこれは老婆心ながら受付の対応は元気に明るくいていただきたい。別にこの討論会は商売ではないが、やはり会のイメージとして気持ちのよいものでありたい。チケットを切ったりパンフレットを渡したりするときに笑顔を添えていただければ幸いである。

 

 2、候補者の接待について

 候補者の方も討論会の当日は相当緊張しているものである。まず候補者の方には会場入りする時間を確認しておく。また候補の方が会場についたときには誰がどのようにお迎えするか決めておく。候補の方が会場に来た時受付がばたばたして入り口でまごつくというのは格好悪い。プラカードを持っている必要はないが、少なくともこちら側から声をかけたい。当然のことながら、接待係は候補者の顔を知っている必要がある。もう1つ注意したいことは候補者の控え室のことである。候補者同士同じ控え室でも和気藹々として全く気にならない場合もあるが、時に候補者同士厳しい戦いをしていて同じ控え室になることを拒否する場合もある。もし同じ控え室にする場合は事前に知らせておいたほうがよい。それからお茶とお絞りもどう出すのかあらかじめ考えておく。特に夏場は、お茶は冷たいものを用意したいし、お絞りも冷蔵庫に入れて冷たくするか反対に熱いものにしたい。ゆめゆめ臭い匂いがしてぬるい温度のお絞りを出すようなことは礼儀として避けたい。そして会が始まる15分前ぐらいには司会者とコーディネーターとともに候補者同士の打ち合わせをしたい。
  この時お互いの誹謗中傷を禁じることや時間を守ることをはっきりと伝えておく。また発言の順番と座る席順をこの時くじで決める。

 (候補者の発言の順番と席順をどのように確定するか)

 候補者にとっては発言の順番も非常に気にかかるところである。ある討論会で2人の候補が討論したがいつも1人の候補が先に話しもう一人の候補は常に後に話した。その結果、後に話をした候補はいつも相手の出方を見て意見を言えたために随分と得をし、また、いつも先に話をしなければいけない候補は心の中で大きなフラストレーションを抱えることになった。また座る席順も舞台のまんなかか舞台の袖に近い場所に席があるとでは有権者の意識に影響を与えるかもしれない。
  席順は当日クジを引いていただいて決定した後、席に名前のシートをはり、会が始まった時に司会者の方から席順がクジにより決まったことを伝えると公平観はより鮮明になる。さて討論会の発言の順番であるが、その場でクジを引いてもらって第1番目の発言者を決定する。このときジャンケンをする場合があるが3人以上の時は煩雑になる。またジャンケンは会場を和ませる役割もないではないが、一歩間違うとおちゃらけたり浮薄になる嫌いもある。クジの方がすっきりしている。討論会の参加者が2人の場合は1つのテーマごとに順番を交代にすればそれですむ。しかし3人以上になるとそういうわけにはいかない。まず一番目の発言者が確定すれば2つ目のテーマからは乱数表を作り、それに従って自動的に順番が決定する方法がスマートである。(表2参照)メインの発言の順番はこのように決定するが、そのテーマにおける自由討論の時間には発言時間1分間くらいで確定していても順番は自由にしたほうがよいかもしれない。

<表2 発言順表>

A氏
B氏
C氏
D氏
E氏
自己紹介
2
3
4
5
第1問
5
1
2
3
4
第2問
4
5
1
2
3
第3問
3
4
5
1
2
第4問
2
3
4
5
1
第5問
1
2
3
4
5
第6問
5
1
2
3
4

 3、司会

 司会は普通にきちっとやれば何も問題は起こらない。ただ時に候補者の到着が遅れたりして予定が突然変更になることもある。そのときは臨機応変に対応する心構えだけは必要である。

 

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 4、会場への人の誘導について

 会場へは人をスムーズに誘導することはいうまでもないが、もう1つ大切なことは会場に人を拡散させないことである。例えば300人の人が会場に足を運んだ場合、1000人の会場と300人の会場では人の真剣さには格段の差がでてくる。同じ人の数なら圧倒的に稠密に人が入っているほうが反響は大きくなる。もし会場にあふれんばかりの人が押し寄せたとしたら何の問題もないが、不幸にして定刻になっても会場にきている人の数が半分にも満たない場合は討論会の質そのものに影響を与えることになる。そこでまず会場の後ろ半分やサイドの席には白いビニールテープをはりめぐらし、物理的に人が後ろの席に陣取らないようにする。そして、場内誘導係が会場入り口から最前列席まで数メートル間隔で人垣を作り、来場者を最前列席から整然と座らせていく。このとき一席といえども席を空けないように座らせていく。口頭で「前の方にお詰めください」と叫んでみても全く効果は無いので、テープと誘導係の人垣で有無を言わせずに前からつめていくのが肝心である。「満席になることが予想されますので前から順番に着席願います」と誘導中に説明すればよいだろう。そしてある程度そのスペースが埋まった段階で一つずつテープをとっていくのである。この方法は大変有効で、常に会場は人がたくさん集まっている風景にみえる。「討論では候補者の発言が大切で有権者がどのように会場に座っているかなど本質とは何の関係もない」と考える人がいたら、残念ながらその人はコミュニケーションの何たるかを知らない人である。意を用いていただきたい。

 

 5、駐車場整理

 まさに縁の下の力持ちであり、とくに冬場に雪の降る中で駐車場整理を行うことは大変な仕事である。しかしこれもまた会を成功させるための大きな要素であると思って頑張って行っていただきたい。

 

 6、タイムキーパーについて

 時間管理の中でタイムキーパーの役割は大きい。候補者に時間の配分を教えるのであるから会場の最前列でボードを持って時間を示す。ボードに書かれた文字は「1分前」「30秒前」というのと「終了」の3つでよいと思う。ボードに極太のマジックで両面に大きく文字を書く。これは手にあげたボードの文字を観客からも見えるようにするためである。ボードをあげている時間が短すぎると意味が無いので、最低でも5秒は上げておきたい。それと、時間の終了を知らせるベルをおいておくとよい。ただし終了と同時にベルをけたたましく鳴らすことは避けたほうが良い。終了から30秒過ぎた段階でならすのがよい。今までの経験上、「終了」ボードが出ているにも関わらず、時間をオーバーして発言を続ける候補者はほとんどいなかったし、またそんなことをしたら有権者の心象を悪くするだろう。

 

 当日の会場準備物について

 会場の準備物については主催者の力量によってかなりの差が出るのはやむをえないが、一応最善を尽くした場合の準備物のリストをあげておきたい。このリストを参考にして取捨選択していただきたい。当日はかなり煩雑な仕事もあり、その時に忘れ物をしていると意識が混乱する。意識して省略するのは一向にかまわないが、うっかりのミスは避けたいものである。

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舞台上の関連準備物

  1、 壇上のパネル
  2、 机(候補者とコーディネーター)
  3、 椅子
  4、 マイク
  5、 司会者演台
  6、 司会者用マイク
  7、 水差し類(ペットボトル)
  8、 出演者机前のふんどし型看板(作成)
  9、 演台花
  10、机上クロス
  11、テープ・両面テープ

 

 

タイムキーパー関連の準備物

  1、 逆算タイマー付ストップウォッチ
  2、 経過時間ボード 1分前・30秒前・終了
  3、 ベル(終了合図用)

 

 

控え室関連の準備物

 1、 出演者の飲みモノ・軽食・お絞り・飴等

 

受け付け関連の準備物

  1、 受け付け看板、ふんどし 受け付け
  2、 配布資料 出演者経歴等・その他
  3、 アンケート用紙
  4、 鉛筆。ボールペン
  5、 (金銭授受がある場合)お釣り用の小銭
  6、 マスコミ受付用名刺入れ
  7、 文房具類 ガムテープ、テープ、はさみ、カッター、画用紙、赤黒青マジック、ホッチキス、のり等

 

会場内客席関連(誘導の準備物)

  1、 聴覚障害者席・指定席看板
  2、 ビニール紐
  3、 布テープ

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会場内警備関連の準備物

  1、 笛2個

 

会場外(交通・駐車場・誘導)関連の準備物

  1、 駐車場表示看板 5枚程度
  2、 看板設置板 5脚程度
  3、 懐中電灯 赤色
  4、 駅から会場への案内図(道順が複雑な場合)
  5、 メガホン(呼び込み兼用)
  6、 トラロープ(黄黒縞々ロープ、大会場での開場前整列用)

 

記録関係の準備物

  1、 ビデオカメラ 3台・2時間対応
  2、 ビデオカメラ用三脚
  3、 カメラ・フィルム
  4、 延長コード(コンセント差込口や、ビデオカメラ用音声ジャックの位置を下見のときに確認しておく)

 

その他看板

 1、 屋外看板
 2、 看板設置板 3脚程度

 

その他

  1、 警備員2名
  2、 スタッフ章(スタッフ全員用。胸名札よりも、背後から確認できる腕章の方が望ましい。)
  3、 スタッフ飲み物・軽食
  4、 トランシーバー(各係りの責任者が1台づつ持つ。なお、スタッフ連絡用に携帯電話を使用してはいけない)
  5、 カンテ
  6、 マジック
  7、 役割分担タイムスケジュール資料
  8、 カンパ箱 3つ以上

 以上が当日の準備物一覧である。これは完璧を期した場合の準備なので主催者のマンパワーを考慮した上で最善を尽くしていただきたい。またこの準備物はあくまでも最大公約数としての準備であるのは言うまでもないことで、それぞれの地域においては独自の企画に則って開催されるのでそれに従った準備物が発生することは念頭においておいていただきたい。
  なお、公開討論会に関する準備のほとんどは数名でできるが、当日運営だけは何十名ものスタッフが必要となる。当日スタッフに関しては自治体の広報誌などを利用してボランティアを募ると、「当日だけなら手伝える」という人が意外にたくさん集まる。また、当日スタッフがどうしても不足する場合、候補者各陣営から同人数のお手伝いを誘導係などのスタッフとして拠出してもらっても差し支えない。特に合同個人演説会の場合は候補者自身が主催者であるので、堂々と依頼すると良い。ただし公開討論会の場合は、選挙運動にあたる衣服などの着用は遠慮していただく。
  また、最近の公開討論会では手話通訳を入れる場合も増えてきた。主催者自身がプロの手話通訳を依頼するとかなりの費用がかさむので、福祉団体などと交渉し、福祉団体からボランティア通訳を派遣してもらうようにすると良い。

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 公開討論会のアンケートについて

 公開討論会が終了した時点でアンケートを回収するとよい。普通アンケートというのはほとんど回収できないものであるが公開討論会の場合意外と集まるものである。アンケートには決まった書式はないが10以上も設問があればかえって集まらないだろう。できる限りシンプルな方がよい。資料19に見本の書式を掲載しておくので参考にしていただきたいが、状況に応じて独自のものを作り上げていただきたい。また合同個人演説会の場合は「公開討論会」の部分を「合同個人演説会」に置き換えていただきたい。アンケート結果は集計後リンカーン・フォーラム事務局に報告していただければ幸いである。
  このアンケートを集計すると数字としての結果がわかり興味深い。是非選挙結果と合わせてお送りいただきたい。

 

 リンカーン・フォーラム事務局への届け出と、報告書の送付

 このリンカーン・フォーラムの公開討論会のノウハウはすべての国民に開かれたものであり、この公開討論会に対して主催者は誠実にこれを実施するという以外、何の義務も持たない。しかし、もしリンカーン・フォーラムのノウハウを下敷きにして討論会が実施されるものであるなら是非、開催するという事前通知と開催結果を事務局にお送り頂ければ幸いである。これから討論会を実施しようとする場合、リンカーン・フォーラムに一報していただければ全国のメンバーが衆智を集めて応援することだろう。リンカーン・フォーラム事務局から近隣の経験者や地域の支援グループを紹介することもできるし、リンカーン・フォーラムの会員制インターネット(無料メーリングリスト)に加入すれば、全国の経験者が電子メールでアドバイスしてくれる。
  またどんな討論会でもその討論会独自のノウハウや注意点が出てくるものである。そのことをお知らせ頂ければそのことが次の討論会のより大きな発展へとつながっていくと思う。
  以下の基礎データを討論会の開催の決定段階と選挙の投票後にリンカーン・フォーラム事務局に送っていただきたい。なお、これら情報のうち対外的に広報すべき情報は各種メディアを通じて広報していくのでお含みおき願いたい。

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 開催事前通知、結果報告書

 公開討論会を開催するにあたって以下の基礎データを「開催決定時」と「投票後」にお送りください。

 A,開催決定時 
  1) 代表者氏名
  2)代表者職業 
  3)代表者連絡先(第1,2電話番号、FAX番号、E−Mailアドレス) 
  4)形式(公開討論会か合同個人演説会か) 
  5)討論会日 
  6)投票日 
  7)主催団体名
  8) 主催団体問い合わせ窓口(対マスコミ)(電話番号、FAX番号、E−Mailアドレス)
  9) 会場
  10) 会場定員
  11) 呼びかけ候補者数

 B,公開討論会開催および投票後にはAの項目と合わせて次のデータを お送りください

  11) 入場者数
  12) 参加候補者数
  13) 投票率(前回、今回)
  14) 開催費用

 ※ その他、テレビ放映が決まったなどのトピックスがありましたら随時ご連絡ください
 ※ なお期間中に掲載されたすべての新聞記事(またはコピー)を同封してください。

 

 リンカーン・フォーラム方式の明示と主催者のスクリーニングの問題

 リンカーン・フォーラムのルールに沿ったものだけが正当な公開討論会であるなどとは、もちろん言うつもりは無い。だが、準備が徹底せずに失敗したり、特定の候補を勝たせる目的で公開討論会が仕組まれることもままあり、公開討論会自体が政治的色彩をもっていると思われることもある。最近催された公開討論会では、主催者のあたかも中立そうな名称の市民団体が実は特定候補の支援母体であったため、対立候補が怒って途中退席したり、新聞報道で問題視されたりするケースが増えてきた。候補者にとっても公開討論会に参加するかしないかは当落にも関わる問題である。目的が不鮮明な討論会には参加しない権利があることは言うまでもないし、仮に、しっかりとした団体であっても、いくつもの公開討論会出席の要請に全て応じるわけにはいかない。今後は候補者自身が、数ある公開討論会の中から出席する公開討論会を選択する時代となるだろう。
  ありがたいことにリンカーン・フォーラムのノウハウは全国の主催者が誠実に実行していただいたお陰で、候補者からもマスコミ、選管からも、そして一般有権者からも信頼されてきた。今後とも私たちはこのノウハウに磨きをかけ、候補者が安心して出席できる公開討論会のデファクトスタンダードを目指していく。
  そのためにも、リンカーン・フォーラム方式で公開討論会を主催される方は、ぜひ「リンカーン・フォーラム方式」である証として「後援:リンカーン・フォーラム」と明示していただければ幸いである。

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